歩留まり率数%から育て上げたUDカーボン

VAIO Pro 11は、タッチパネル非搭載モデルでは約770g、タッチパネル搭載モデルでは約870gという驚異的な軽さだ。実際に製品に触ってみると、質感を持ちながらこれだけの軽量化を実現したことに驚く。

この質感を実現した素材として見逃すことができないのが、UDカーボンの採用だ。UDカーボンは、東レが開発したカーボン素材で、一般的なカーボンでは繊維がクロスして構成されているのに対して、UDカーボンは、ひとつの方向に繊維が整列するような形で構成される。

VAIO Proの天板にもUDカーボンが使用されている

アルミに比べて重量は約半分。それでいて強度は25%強いというように、軽くて、強度を発揮する素材だが、その一方で加工しにくいという課題がある。

「通常のカーボンに比べても固い繊維のため、直角には曲げることができない。無理矢理に曲げると繊維が飛び出してしまい、溝ができてしまう。繊維を一本も"抜け"がない状態で成形をするのは難しい。長年、東レと一緒になって作り込み、加工方法にも改良を加えてきた」(宮入統括課長)

宮入統括課長は、このカーボン素材を「10年来、大事に育ててきた素材」と位置づける。

実は、ソニーは、2003年に発売したバイオノート505エクストリーム(PCG-X505/P)で、外装素材にUDカーボンを使用した経緯がある。30万円を超える価格設定の製品ということもあり、それほど販売台数が見込めるものではなかったが、だからこそ採用した素材でもあった。

今も根強いファンが多い、2003年発売のバイオノート505エクストリーム

「当時の歩留まり率は数%。製造不良のカーボンの山ができていた」と、宮入統括課長は振り返る。それから10年を経て、いよいよ量産化するメインストリームの製品に、UDカーボンを活用するところにまでこぎつけたというわけだ。

このUDカーボンを使用するにはもうひとつ課題があった。それは、繊維が一方向に整列して作られているため、目に対して横方向のねじれには強いが、縦方向のねじれには弱さがあるという点だ。クラムシェル型のノートPC形状でいえば、まさに開け閉め方向で弱さがでるということになる。

それを解決するために、VAIO Pro 11ではヘキサシェルと呼ばれるデザインを採用している。筐体の端部分を斜めに切り落とすようなこのデザインは、「曲げ」を加えることで、強度を高めることにつながり、縦方向に負担がかかる開け閉めの際にも、たわまないという構造を実現することになった。

デザイン性だけでなく、強度と質感をも高めたヘキサシェルデザイン

「UDカーボンとヘキサシェルデザインによって、外側をしっかりと作り込んでいるので、中に強度を高めるためのフレームなどを入れる必要がない。これも軽量化の実現に貢献している」(ソニー・山内氏)。

宮入統括課長は、これを「構造を作り込んだ結果のデザイン」と称する。デザイン性を高めながら、強度と質感も高めることに成功しているからだ。

一方でパームレスト部にはアルミを採用。ヘアライン加工によって高級感を出すことに成功しているといえよう。

パームレスト部にはアルミを採用。ヘアライン加工で高級感が醸しだされる

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