農林業向けロボットに必要なこと
続いて、菅野教授は農林業における一般論として、どうすれば有用なロボットができるかという話に移る。まず収穫(農業)ロボットに必要な要素として、「環境構造化」、「認識」、「収穫」の3点がピックアップされた(画像17)。最初の「環境構造化」は何のことかというと、「何でもできるロボット」を産業に組み入れるのは難しいので、逆にうまく対象(産業)側をロボットやRTが活躍できるように変えるという考え方である。
工場でなぜFAロボットが多量に活躍しているかというと、もちろん工場がFAロボットが活躍しやすいように作られているからだ。逆に、ヒューマノイドロボットが家庭に入っていってなぜ動けないかというと、普通の家庭は人間用に設計されているから、なかなか動きにくいのである。環境構造化とは、要はロボットを使いたいのならその使いたい環境をロボットが活躍できるように変えてしまおう、という考え方というわけだ。
しかも、一見すると自然のものなので環境構造化は農業に向いていないように思われるかも知れないが、実はとても有効だという。そこに、実の熟している度合いなどをチェックする認識技術やマニピュレーションによる収穫機能などを組み合わせることで、実際に使える農業用ロボットが実現できるだろう、というわけである。そうして実際に農林水産省を中心に進められている「次世代農業機械等緊急開発事業」において、いちご収穫ロボットなどが開発されているというわけだ。なお、いちご収穫ロボットの開発には、菅野教授の研究室が協力している。
なお、このいちご収穫ロボットがどのようなものかについては、以前の記事を読んでいただいた方はおわかりいただけていると思うが、農家の人たちにとっても立位で収穫作業を行えることから(従来の露地栽培だと、中腰を長時間強いられるのかなりの重労働)採り入れられている「高設栽培」(いちごを高い位置から吊り下げるようにして育てる)の仕組みが、ちょうどロボットにとっての環境構造化を実現しているのである(画像18)。実際に動作している様子は、以下の動画の通りだ。
簡単に現在までの開発の流れを説明すると、2006年にM型いちご収穫ロボット試作機の構想がまとめられ(画像19)、2009年からはそれまでの集大成的な位置づけとなるM型3号機(画像20)の開発が始まり、愛媛県松山市や埼玉県さいたま市のロボット実証ハウスに設置されて、テストが重ねられているというわけである。
最後に、これまでは研究ロボットで良しとされていたが、今後は実用化ロボット(RT)まできちんと開発することが必要であるとした。そのためには、最初に菅野教授が述べたように、環境構造化=農場の工場化的な考え方が重要であり、ロボットの本質である制御というものをうまく採り入れて人間に有用な形の設計を行うことで、一例ではあるがいちご収穫ロボットのような実用化ロボットを開発できるとしている。ちなみに小菅教授は、現在はトマトの収穫ロボットを開発中だそうだ。そして菅野教授は、農業はロボットの有効な活用シーンであり、農水省に限らず、もっといろいろなところに農業用ロボットの開発に力を入れてほしいとした。