作りたいものと作るべきものは違う
また、日本の2足歩行型のヒューマノイドロボットに関しては、素晴らしい技術を持っているが、リアリティのあるシナリオを描き損ねてしまったため、エンターテイメントなどの方向に行ってしまっており(必ずしも全部が全部エンターテイメントではないにしろ)、厳しいいい方をすると、日本には研究者が「作りたいもの」を作ってしまっているケースが多く、「作らなければいけないもの」が作られていないといわれているとした。やりたい技術と、やらなければ行けない技術が現状では乖離してしまっている部分があるため、そこをいかにうまく組み合わせて、継続的にロボット技術を開発していくかということが今の課題ではないか、とした。
さらにDARPAに関して小菅教授は、「非常に巧み」ともいっており、東日本大震災の後にDARPAの高官が来日して日本のロボット関係を含むさまざまな研究者と会い、日本と共同で何かをする方向でいたが、帰ってから開始したのはオープンのトライアル競技のDRCだったというわけである。
また菅野教授によれば、やはりDARPAはとてつもない予算を持っている点が大きいという。どんなことでも大金をつぎ込むことで大規模に進めて、結果として成功してしまうところが非常に大きいとする。日本にはもちろんそんな予算はなく、あらゆる分野において、日本の研究者たちは創意工夫でもってアメリカの研究者たちと勝負し、科学全般を見渡せば、日本が勝利したものもあるし、優劣はつけられないが米国でも実現できていないものを達成したりしているのである。
そして今回、菅野教授が農林業ロボットを題材にしたかというのは、まず要素技術があるのは確かだという。それをいかにフィールドで使える有用なものにするか、という部分で巧みさをもっと発揮しなければ、米国には勝てないだろうとした。予算規模からいったら、すべて吸い上げられてしまうという。そのため、農林業でも現場と結びついた研究開発を考えなければいけないとした。
ロボットについてはエンターテイメントや知能研究など、さまざまな分野があるが、それらはそれらでまったく意味がないとはいわないが、そういうことをベースにした上で、実際的なフィールドのところをやらないと日本は勝てないとする。実は、菅野教授が「面白いこと」とするのが、米国では実際に農業や林業など各種現場・フィールドと結びついたという話をあまり聞かないことだという(ヨーロッパの方が日本に近いそうである)。そういうことから、日本のロボットはフィールドの部分で、実際的なところを進めることで日本の強みを出して、産業としてものづくりとして進めないとマズイのではないかということを強く意識しているとした。
そのほかにも、菅野教授、白井准教授ともに農業、林業どちらも揃って構造的な問題点なども挙げ、そうした改革も必要なようである。今回のプレスセミナーは「世界のロボット事情と日本の現状」であったが、世界のロボット事情に関して具体的な話は少々少なかったものの、我々メディアの人間も含めて海外にも目を向けていないといけない、というのを改めて考えさせてもらえた。英語への苦手意識から、つい遠ざけてしまいたくなるのだが、今やロボットもアメリカが席巻しそうな気配なので、見て見ぬフリというわけにはいかないのをひしひしと感じる。
また日本の現状に関しては、福祉などのサービスロボットがなかなか市場を形成できない(安全ガイドラインのサービスロボット安全規格「ISO13482」が2013年内に発行なので、それで変化があるかも知れないが)中、農業は以前からある程度のことはわかっていたが、林業がロボットにとっては未開拓のフロンティア状態であることには少々驚かされた。もっと多くの研究者が参入してもいいのではないかというのを感じたところである。
海外製の高性能林業機械は1台数千万円するということで、それを補助金で購入しており、結果としてどんどん海外に円が流出していること、なおかつそれらが日本の山林に必ずしも適していない機械であることを考慮すると、とてももったいないような気がしてしまうのだが、それは林業についてまったくわかっていない門外漢だからだろうか。その一部でもいいから国内の山林用の林業ロボット開発に向けたら、もっと日本向けに適したロボットが開発され、生産性の向上と危険性の低下につながるのではないかと思うのだが、いかがなものだろう。
短い時間の中で語ってもらうには、それぞれが大きな題材だったため、また改めて話を聞いてみたいところだが、「日本のロボット、このままでは海外(特に米国)に打ち負かされてしまうのでは?」という危機感がますます強くなったと同時に、「ロボットは林業にとても向いているのでは? なぜ空白地帯となっているのか? もっと資金を投じて開発すべきでは?」という可能性も感じられた。これを読んで、林業用ロボットを一丁、作ってみるか! なんて考えてくれる企業などが出てきたら幸いだし、日本のロボットが海外に負けないようにするためにはどうしたらいいかを1人でも多く考えてもらえればありがたいところである。