―― 完成にたどり着くまでは、試行錯誤も多かったと思います。
坂牧氏「ええ。TD印刷技術ですと、初期のころは表面を美しく表現できなかったので、シートの塗布薬を改良したり、熱のかけ方をいろいろと変えたりしました。
3D造形技術は、データ作成とベストな仕上げ方法を見つけるまでが大変でした。最近は3Dプリンタが注目されていますが、本来、3Dデータはそんなに簡単に作れるものではないんです。相当な実験を繰り返して、この1年で形状の美しさは段違いに進化できたと思います。
仕上げ面でも、プリンタ設定や表面処理用の薬剤配合などは、ずいぶん実験してきました。3年前から製品化を目指してきましたので、ノウハウの蓄積では負けない自信があります」
―― 3D造形の場合、作り始めから完成まではどれくらいかかるのでしょうか。
坂牧氏「例えば『微笑むハローキティ』と『朝食準備をするパティ&ジミー』ですと、構成要素が比較的少ない『微笑むハローキティ』のほうが少し早くできると思います。データ完成までには数日かかりますが、プリンタ出力自体は8時間で8枚作成できますので、1日あればそれなりの量産が可能です」
ユーザーとの橋渡しをハローキティたちに委ねる
―― コラボレーション先としてサンリオさんを選ばれた理由を教えてください。
坂牧氏「ある程度の作品が完成して実際の販売をと考えたとき、対象のユーザー層をどうするかという話が出てきました。限られたジャンルでは狭い世界になってしまいますし、広げすぎると製品の種類も煩雑になってしまうと。そこで、人気のキャラクターを芸術的に表現した作品にすれば、喜んでいただける方も多いのではということで、サンリオさんにお声がけをしました。
サンリオさんは、とにかく新しい取り組みを面白がってくださります。前例のないことでも快くサポートいただけるので、こちらとしても大変ありがたく、やりやすいんです。キャラクターに大きな自信があって、どんな内容でも負けないという自信と度量の広さをお持ちだからでしょうね。今回ここまでの形にできたのも、サンリオさんのご協力のおかげです」
サンリオの名画トリビュートシリーズを利用した作品 |
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日傘をさすハローキティ |
微笑むハローキティ |
朝食準備をするパティ&ジミー |
―― なるほど…。作品にされたハローキティの原画はオリジナルですか?
坂牧氏「3点は既存のものを使わせていただきました。今回は絵画要素の強い作品なので、その雰囲気に近いと思われる、名画トリビュートのイラストから選んでいます。一方、『お出かけ前のハローキティ』を含む他の3点はカシオで描かせていただいたオリジナル原画です。こうした独自の作品も、面白いと言ってくださるのはありがたかったですね。人気の『キャラクター』を持つ企業やブランドとしては、珍しいスタンスだと思いますよ」
カシオによるオリジナルデザイン。どこかモダンな印象だ |
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お花のハローキティ |
お出かけ前のハローキティ |
パリのハローキティ |
―― 作品のタッチやトーンなど、想定していた雰囲気は最初からあったのですか?
坂牧氏「ハローキティは来年(2014年)誕生40周年なので、ファン層も幅広いんです。今回は40~60代の女性を中心に想定したのですが、ハローキティのファンであることは当然として、どんなインテリアのお部屋やご自宅かもシミュレーションしましたね。
その上で、癒しが得られるトーン、自宅に飾って嬉しくなる雰囲気を考えつつ、リラックス、ファッショナブル、クールといったテイストの作品を選んでいます。額縁を含めた製品ですので、モノトーンのお部屋なら『パリのハローキティ』がいいかな、などと、飾った様子をイメージしながら気軽に選んでいただけたらと」
―― オリジナル作品には、技術がより際立つような表現なども加えられたのでしょうか。
坂牧氏「はい。TD印刷技術で膨らませることを前提に作っていますので、『お出かけ前のハローキティ』などでは、洋服の柄を意識的に細かくしてもらいました。細かい凹凸や質感も表現できますので、枠線やカーテンのフリンジなどもくっきり出ているのが分かっていただけると思います」