カシオが伝えたかったデジタル技術の一つのカタチ

6月15日に販売が開始されたカシオ計算機のデジタル絵画「カシオアート」。カシオ独自の3次元デジタル技術を用い、サンリオの人気キャラクターであるハローキティを独特の質感描写で立体的に表現したアート作品だ。プロジェクトの経緯や制作の仕組みについて、技術開発担当のカシオ計算機 デジタル絵画推進部長 坂牧勝也氏にお話を伺った。

カシオ計算機 デジタル絵画推進部長 坂牧勝也氏

―― まず「カシオアート」について教えてください。

坂牧氏「約3年かけてカシオで開発してきた、TD(Thermal Distend)印刷技術と3D造形技術を用いて制作したアート作品です。カシオとアート、『いったい何の関係があるの?』と思われる方もいらっしゃるでしょう。

ですが、普遍的な必要を創造する(編注:カシオ創造憲章の1つ)という使命のもとに開発している私たちからすれば、必然と言えるものです。こうした製品を提案することで、カシオのデジタル技術をユーザーの皆さまに分かりやすくお伝えできると考えているからです」

―― なるほど。では「カシオアート」には、これまでのカシオの技術が多数応用されているということですか。

坂牧氏「はい。デジタルカメラに利用している画像解析技術をはじめ、ここ10年ほど取り組んできた3D-CG技術もそうですね。そこに出力・印刷技術のノウハウを組み合わせた形になっています。見た目には『デジタル』と離れているせいか、社内でも『カシオでアート?』や『これは液晶上で画像が変わるんですか?』などと驚かれるんですが、あくまでもデジタル技術の一つの完成形なんですよ」

TD(Thermal Distend)印刷技術による「日傘をさすハローキティ」は、カシオアートの代表的作品

イラストとは異なる不思議な質感と世界観がある

―― 独自の技術というと、どんな部分なのでしょうか。

坂牧氏「まずTD印刷技術は、キャンバスとなるシートに熱で反応するマイクロカプセルを配置し、熱をかけて膨らませる技術です。建材などですでに使われていますが、カシオでは1.8mmの膨らみを多段階の凹凸で表現できる技術を開発しました。『日傘をさすハローキティ』のように、油絵筆のタッチなどの細かい質感を再現できるのが特徴です」

―― 多段階の凹凸を制御するのは、とても難しそうですね。どうやってコントロールしているんでしょう。

坂牧氏「大まかに言うと、膨らみ具合の情報をあらかじめシートに加えておき、熱を制御します。今までは膨らむか膨らまないかのほぼ二択でしたから、大きな進歩だと思います」

滑らかな3Dレリーフ制作には、樹脂を積層させる指令を出すデータ作りがとにかく重要

―― 3D造形技術についてはどうでしょうか。

坂牧氏「3D造形のほうは、3D-CGデータの作成プロセスをオリジナルで開発しました。出力は、石膏に樹脂が含まれたパウダーを数百ミクロン単位で重ね、その上にバインダー(石膏を固める溶剤)とカラーインクをプリントして、硬化させる仕組みです。フルカラー出力できる3Dプリンタを利用することで、立体造形と着色を同時に行うことができます」

―― 例えば、これらの技術に適したタッチや画材などがあったりするのでしょうか。

坂牧氏「そうですね。TD印刷技術は花のような細かな凹凸表現や、油絵など質感の出るタッチに向いています。3D造形技術は、奥行きがあるものと、今回のハローキティのようにくっきりした要素で構成されたキャラクターなどが得意です」

花や筆致が膨らみで表現されている

3D造形技術にとって、ハローキティは最高のモデルさん

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