江戸川由利子として
――『ウルトラQ』では、そこにはいない怪獣を見て驚くお芝居をしなくてはならならなくなったわけですが、制作第1話となった『マンモスフラワー』のファーストシーンは、どのように演じられましたか?
「キラキラ輝くお堀の水辺を見て、"あそこにヘンな物が上がってくるから驚いてくれ"って言われるんですけど、どうしたらいいか分からなくて。でも、ウチには先輩がお二人いらっしゃったので(笑)。佐原健二さんは本多先生や英二監督とずっと東宝の特撮作品をやっておられたし、西條康彦さんはベテランだし。で、どうなさるのかなと思って、お二人を見たの。お二人とも、なんにも見えないものをあたかも見えるような形で芝居をしてらっしゃるのを見て、あっ、頭の中で想像するんだな、と思って。じゃあ、私は私なりに想像して驚けばいいんだなと、そのとき会得しました」
――"芸は盗め"ってよく言われますけど、それを地で行っておられたと(笑)。『総天然色ウルトラQ』の特典映像を拝見しますと、レギュラーのお三方とも一番思い出深いエピソードとして『クモ男爵』を挙げておられますね
「やっぱりセットがいいと、自然に不気味な世界に入っていけるんですよね。忘れられないエピソードがあって、西條さんが池で溺れるシーンはドラム缶を入れて、そこだけ深くしてるんですけど、そこに田中敦子さんというスクリプターが落ちちゃったのよ。しかも、二度(笑)。いつものセットのつもりで、"そこ違う、違う"なんてやっていると落っこちちゃう。もう、着替える洋服がなかったって言ってました(笑)。それから『1/8計画』も印象に残ってますね」
――その『1/8計画』のお話もうかがえますか?
「たいていの作品はリハーサルをやるんですけど、この作品はリハが無かったんです。ぶっつけ本番で演じさせるおもしろさを狙ったんじゃないでしょうか。私が1/8サイズになっている設定なので、全てのセットが巨大に作られていたんです。本番では電話の受話器が重くて持ち上がらなくて、どうしようかと思いましたよ。それで結局壊しちゃって(笑)。大きなエンピツを使ってメッセージを書くシーンでは"さようなら"って書いたら(英二監督のご長男で本編監督の一さんから)まだカットがかからないので、仕方ないから続けて"ゆりこ"って書いたりして。同録(映像と同時に音声を収録すること)じゃなかったですから、結構ブツブツ言いながら(笑)」
――レギュラーのお三方の中では、淳ちゃんと由利ちゃんがいい感じになっているという描写もありますが、そこに一平君がくっついているという単純な構図にしてしまうとつまらなくなってしまいますね。そのあたりは、どのようにお考えでしたか?
「私は新人もいいところで、佐原さんや西條さんに比べたらヒロインとしては歳も違うし、同等でヒロインとして演じさせて頂くのはどうだろうという感じでしたよね。とにかくついていくのに精一杯で。お二人が私や由利ちゃんというキャラクターを生き生きと伸ばしてくださったので、感謝しています。私自身は、やれって言われたことをそのままやっていた感じで、深く考えてなかったんですよ。当時、フランス映画なんかだと二人の男性に女性一人みたいなのがあったので、そういう感じなのかなあと漠然とは思ってました」