――ちなみに、笹川さんから見て、タツノコプロに入られた頃の大河原さんはどのような印象でしたか?

笹川氏「美術部というところがあって、そこは背景を描いたり、キャラクター以外のものをすべて処理したりするんですけど、大河原さんはそこに入られたんですよ。そこの部長さんが中村さんという『マッハGoGoGo』なんかをデザインされた方なんですけど、その中村さんの下で、即戦力として次から次へと仕事をしてもらっていたら、メカといえば大河原というぐらいになっていて。その頃からですよね、メカというものが市民権を得たのは。今ではタイトルロールにもちゃんと入っていますから」

大河原氏「私は、タツノコさんが3社目だったんですけど、4月2日に入社して、4月11日に結婚式だったんですよ。さすがに無職で結婚はできないというのが、タツノコに入った理由でした(笑)」

――特にタツノコプロだからという理由ではなかったのですか?

大河原氏「私はアニメに興味がなかったし、マンガも読まなかったので、まったくわからずに入ったんですよ」

――誰かの紹介というわけでもないのですか?

大河原氏「いやいや、新聞の求人広告を見て入りました」

――絵が描ける人募集、みたいな感じですか?

大河原氏「それでもなかったんですよ。そのときの募集は、どちらかというと進行、制作系だったみたいなんですけど、美大出身だから美術に配属されたんだと思います。ひそかに希望はしていたんですけど、タツノコの場合、武蔵美出身者が多いんですよ。私は造形大の第1期だから先輩も誰もいないので、本当に偶然ですね」

笹川氏「美術部というのは本当に大変な仕事で、小道具的なものからすべてをデザインしないといけない。それを中村さんが全部引き受けちゃって、徹夜徹夜で大変だったんですけど、そこに大河原さんが入られたので、中村さんは本当にうれしかったと思います。デザインというのはやはり才能の仕事なので、人が入ればそれでいいわけではない。できない人には絶対にできない仕事ですからね」

大河原氏「中村さんは本当に仕事が大好きな人だったんですけど、絵を描くだけじゃなくて、美術部も仕切らなければならない。美術部の社員は美大出ばかりなのでちょっと変わった人間ばかりなんですよ。仕事中に居眠りするのは当たり前ぐらいの、本当に個性的な人が多かったので、それをまとめて、そのうえで美術の監督から背景まですべてをやっていたんですよね。本当に仕事が好きじゃなければ、ああいう仕事ができないと思います」

――笹川さんは元々マンガを描いていらっしゃいましたから、美術に関してはかなり口を出したりもされたのですか?

笹川氏「出しましたね。何かあったら、中村さーんって(笑)」

――絵に関してはいろいろとうるさい監督だったんでしょうね

笹川氏「うるさくはなかったと思いますけど、本当いろいろなことをお願いしました。あれはできないかとか、あそこはこうしてくれって」

大河原氏「笹川さんは、演出家のヘッドとしていろいろと口を出すところもあったと思うんですけど、美術は中村さんが仕切っていて、任せても安心みたいなところもあったと思います」

笹川氏「一度、エンディングのタイトルロールで、石版に字を彫ってほしいとお願いしたことがあったんですよ。『それを絵で描いちゃダメなんですか』って言われたんですけど、それだと質感が出ないからって言ったら、石膏を買ってきて、本当に彫ってくれました(笑)」

――実写でやったということですか?

笹川氏「やりましたね。もうちょっとここに影をつけて彫ってくれとか、いろいろとお願いして……」

――もうそれはアニメ会社の美術じゃないですよね

笹川氏「そういうことをみんな中村さんの美術部はやってくれたんですよ」

大河原氏「笹川さんがスタジオの裏に家を新築されたとき、グズラの噴水がほしいっていうので、FRPで作りましたよ。粘土で笹川さんと中村さんが原型を作って、私がそれを石膏取りしてFRPを流して、水道管を入れてね(笑)」

笹川氏「まだちゃんとありますよ(笑)」

――すごく豪華な噴水ですが、もはや仕事でもないんですね(笑)

大河原氏「あの頃は、若い社員が多かったので活気に溢れていたし、何でもやりたいっていう人が多かったですね。会社も『ガッチャマン』などで儲かっていたので、何でも許される感じがありましたし。たとえば、決算近くになると、各課に予算が出て、これで部屋をきれいにしろって言われるんですよ。そこで我々は立川のホームセンターまで行って、いろいろなものを買い込んで、部屋を飾りつけて」

笹川氏「すべての部署にやらせたのですが、やはり美術部が一番きれいでした。お客さんが来ても恥ずかしくないように、きれいにしましょうということだったんですけど、あの頃は本当に家庭的で良かったね」

大河原氏「私は会社に入って1年目ぐらいで社長にお寿司をごちそうになりました。天野(喜孝)さんと3人で(笑)」

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