ARMベースのGPUコンピューティング環境整備もスタート
NVIDIAは、ARMベースのGPUコンピューティング環境整備にも乗り出した。同社はすでに、スペインのBarcelona Supercomputing Centerの低消費電力HPCプロジェクト「Mont Blanc」(モンブラン)において、同社のTegra3とQuadroを組み合わせたプロトタイプを提供することをアナウンスしている。このMont Blancプロジェクトは、2014年に7メガワットで50ペタFLOPSのHPCを実現しようというものだ。NVIDIAはイタリアの組み込み系ソリューションベンダーのSECOと協業して、同プロジェクトのために開発向けボードの供給を開始する。
Barcelona Supercomputing Centerの低消費電力HPCプロジェクト「Mont Blanc」の概要。2014年に7メガワットで50ペタFLOPSの性能を実現するプロトタイプを構築し、2017年には10メガワットで200ペタFLOPSの性能にまで引き上げる計画だ |
Barcelona Supercomputing Centerが目指すのは、地球環境にやさしい"Green"なHPCの構築だ。同研究所はMont Blancで2017年にはGreen500ランキングのトップを目指す |
同社が"Carma"(カルマ)と呼ぶ、Tegra3ベースのARM系GPUコンピューティング環境開発ボードは、
- NVIDIA Tegra3 クアッドコアARM A9プロセッサ+2GBメモリ
- NVIDIA Quadro 1000M GPU(96 CUDAコア)+2GB GPUメモリ
- ピーク演算性能:270ギガFLOPS(単精度)
- PCI Express 1.1 x4インターフェース(CPU-GPU間)
- GbE LAN
- SATA×1
- HDMI, DisplayPort
- USB 2.0×3
- Ubuntu OS
- CUDAツールキット
の構成で、2012年第2四半期より供給が開始される。
ただし、グプタ氏は「これはあくまでもソフトウェアやシステムの開発用で、ARMベースのHPC製品の整備は先になる」という見通しを示す。実際、GPUコンピューティングの性能を活かそうと思えば、CPU-GPU間インターフェースがPCI Express 1.1 x4に過ぎない点は大きなボトルネックになるなど、製品化にはほど遠いという印象を受けるのも確かだ。
スティーブ・スコット氏も、日本・台湾メディアとのインタビューにおいて「低消費電力タイプのHPCの需要が拡大しているのは確かだが、ARMがHPC市場に浸透するのは64bit対応が実現する2014年以降になるだろう」と見ている。同氏は、「現在、ARMベースの低消費電力エンタープライズ製品のターゲットは、ストリーミングサーバーなどのサーバー用途に限られている。これには、現行のARMアーキテクチャが32bit対応で、大容量のメモリを搭載できないなどの制約が大きいことも大きく関係している」と説明する。つまり、ARMがHPC市場に本格展開を進めるには、ARMの64bitアーキテクチャ「ARM v8A」の登場を待つ必要があると言うわけだ。Mon Blancプロジェクトも2014年の実現を目指しており、NVIDIAはARM v8の開発でも密接な関係にあると言われている。
実際、ジェンスン・ファンCEOは、GTC Asiaで設けられたグループインタビューにおいて、「Project Denverは、世界初の64bit ARMコアになる」と明言しており、ARMの64bitコア"ARM v8A"の投入が2014年になると見られていることをふまえると、Project Denverは2013年末から2014年頭には姿を現わす計算になる。同社は"Project Denver"をGPU向けコアとして開発しているが、ARMベースのHPC市場の盛り上がり方次第では、派生製品が登場する可能性もゼロではなかろう。
NVIDIAは、GTC Asiaを通じてGPUコンピューティングによるHPCの電力効率向上を訴えたが、低消費電力タイプのHPC市場においても、舵取り役を果たしていくことになりそうだ。