自身が抱える「漠然とした不安」が作品のテーマとして見え隠れし、その中にしっかりとエンターテインメント性を持っているのが三池作品の魅力なのかもしれない。時代劇、3Dと新たなジャンルに挑みつつ、決して"奇をてらう"ことはしていないそうだが、わくわくするような発想の一端を垣間見せてくれた。
三池監督「本物の戦国時代モノを撮ってみたいですね。金と力を持つ人間同士がガチンコでぶつかり合う。相手に暴れる口実を与えて、実際に暴れ出したらつぶしにかかる。これを本気でやったらドラマでは再現できない。これこそ映画向きなんです。お客さんに理解してもらえないものを作ろうとするとプロデューサーは同意してくれませんが(笑)。でも、時代劇に限らず、人間の本当のところを描くと理解しづらくなってしまう。同じ時代に生きている隣人のことだって、全部どころか半分も理解できていないでしょう。多くの人は、"誰かに自分を理解してほしい"と深く悩んだりするわけですから」
三池監督「だから、戦国武将を本気で描いて理解してもらえなくてもいいんじゃないかと思います。『えっ、ここで怒るの?』とか『何で今笑ったの?』って面白いですよね(笑)。見ている人の価値観がバラバラになって、大混乱してしまうのもいいじゃないですか。それでもそこには強烈な生命力が溢れていて、『細かいことは分からないけど、生きるってこういうことなんだ』と伝わればいい。今、僕らは時代劇というジャンルからはみ出さないように作っていますが、それを壊してみたいという気持ちもあります。『実録 水戸黄門』とかもいいですね。ご老侯一行が旅の途中、女性しか住まない島にたどり着く。そこには酒池肉林の世界が広がっていて、あれこれするわけです。『さすが黄門様!』というようなことをね(笑)。「お客さんには、『人の上に立つ人物とはこれほど豪快なのか!』と思ってもらえれば良し。ただ、『水戸黄門』は人が作ったものですから、それを壊すのはよくないですね。だから、自分たちで作って、それを自分たちの手で壊したい。『三池さんは、すでに壊しているのでは?』と言われることもあるけど、自分ではまったくその意識はないんですよ(笑)」
映画『一命』は、10月15日より全国公開。