"これまでの3D映画とは一線を画する3D映画"は、カンヌ国際映画祭をはじめ世界に大きな衝撃を与えた。しかし、三池ファンにとっては、アクションたっぷりの“三池ワールド”全開の3D作品と出会いたいところ。今現在、3Dで撮影する予定の企画はあるのだろうか。
三池監督「以前、ちょっと変わった3Dの企画を考えたことがありました。本来は飛び出しちゃいけないものが飛び出してくる3D作品をぜひ撮ってみようって。人間でやるとあまりにもグロテスクなので、人形劇という設定でした。魅力溢れる人形を使って、色々な意味でエロティックなものを撮ろうとしたんです。何かとんでもないものが作れるんじゃないかなと思ったんですけど、残念ながらこの企画は中断。今後も3Dカメラで撮影していくつもりですが、いかにも3Dらしいジャンルのものはどうかなと思うんですよね。だって、大変そうじゃないですか(笑)。だから、今まで通り撮りたいものを撮るけど、作品の方向性が変わるのではなく、ただ使うカメラが3Dになるというだけかもしれません」
「撮りたいと思ったら何でも撮る」と話し、多種多様な作品を世に送り出している三池監督だが、近年は『十三人の刺客』や『一命』のような「時代劇」、そして「侍」に対する思いが強くなっているようだ。
三池監督「命はいずれ絶えるもの…と言ってしまえば月並みですが、時代劇にはその命のはかなさ、それゆえに光って見える命の美しさを感じます。皆さんの人生も、映画の中の人物の生き方も"つまらない人生"でいいんです。映画では偉業を成し遂げた人物とか、特別な強さを持った人が取り上げられがちですが、本来は普通の暮らしの中にすべてが含まれているはず。映画もそういう部分を切り取ったもののほうが面白いですよね。中国や韓国の映画はずっとそういう視点を持ち続けているけど、日本映画はそこに妄想を投影するようになってしまいました。今回の『一命』だって一見すると普通の人の暮らしを描いてはいません。ただ、普通であろうとした人たちが崩れていく様を描いていて、そういう意味では普通の浪人の話なんです。子供と奥さんに薬や食べ物を与えたい。父親としての当たり前の使命を果たそうとした浪人の話ですから。こういうテーマを使って、『現代にモノ申す!』っていう視点を入れちゃうと、いい時代劇にはならないんですよ。僕らは、ただ『こんな人たちがいたんだ。辛かっただろうに…』という気持ちで彼らを見守り、その"誇り"を映しただけなんです」
三池監督「僕たちは侍ではないけど、普通の生活の中にもある種のプライドは必要だと思う。現代人のほうが自由に生きているようで、何かに縛られている感覚ってありますよね。例えばファッションなんかもそう。ダイナミックさを持った人はほとんどいない。昔に比べれば、ファッションや音楽のジャンルはものすごく増えているけど、一つ一つは小さくなってしまった。その小さな世界の中で個性を主張し、“オレはこういう人間だ”って完結しているだけに見えるんです。さびしいですよね。そのプライドはスケールが小さ過ぎる。現代人の感覚と侍の誇りを比較しようと思って映画を撮ってはいませんが、自分の中に積った漠然とした不安が作品に出ているのかもしれない。不安なんて隠してこそ凄みが出るものなんでしょうけどね(笑)」……続きを読む