あくまでも「投資信託が中心である」というこだわり
――フィデリティ証券は急成長をしているわけですね。あらためて、投資信託が中心であるというこだわりの理由は何でしょうか?
大きな理由は二つあります。一つは、さきほども申し上げたように、フィデリティ証券がフィデリティという世界でも歴史があり、規模の大きな資産運用グループの一員であるということです。
もう一つは、資産運用のエキスパートとして日本の投資家に対して、単なるデイリーの取引ではなく、自分の将来に備えて長期の視点で資産運用を考えることをガイドすることが、我々のミッションだと考えているからです。この観点は全世界で共通するフィデリティの考え方であり、他のオンライン証券とは取るべきポジショニングがまったく異なるのです。
――フィデリティグループの他国での展開も、日本と同じと考えてよろしいのでしょうか?
全世界で、ダイレクトビジネスが重要と位置づけていまして、当然米国ではオフラインも含めてビジネス展開していますが、それ以外の日本、台湾、香港、インド、英国、ドイツ、フランスといった国・地域でそれぞれダイレクトビジネスを展開しています。フィデリティでは直接 お客様とつながることで、本来の資産運用のありかたを啓蒙し、伝えています。
また、世界各国で展開されているオンライン投信販売のノウハウを別の国・地域で展開することも可能です。世界レベルの資産運用を日本でも展開できることは、投資家のベネフィットにもなり、他のオンライン証券との差別化できるポイントだと思っています。
――さきほど、入社されて商品ラインナップが足りないことに気づいたというお話をされていましたが、どのようにして足りないことに気づかれたのでしょうか?
コールセンターのほうから毎日のようにお客様の声が上がってきますから、ほぼリアルタイムでお客様の生の声を聞くことができます。また、オンラインビジネスでは、サイレントボイスと申しますが、お客様のクリックで、ニーズの把握や動向を見ることができます。マーケティングのサイエンティフィックな部分というのが、オンラインでは比較的簡単に実現できるのです。
――そうした声を反映して、どのような商品を増やしたのですか?
当初我々に圧倒的に足りなかったのは、エマージング(新興国)系の商品でした。オンラインのお客様というのは、自ら投資判断できる方が多く、ある程度リスクの高い商品を求める傾向がありますが、2006年当時はそれに応えられなかったのです。その後も、徐々に債券のラインアップもそろえていくなど、偏らずにバランス良く商品を増やしていきました。
――今春、オンライン証券4社が、投信販売プロジェクトを共同で立ち上げました。逆に言えば、なぜこれまで、ネットでの投信販売というのは、広がりを見せなかったのでしょうか?
お客様のニーズに対して、ネットの特性をマッチングさせていなかったことに原因があるのではないでしょうか。具体的に言えば、ネットで資産運用をすることについて、オンライン証券やその他のオンラインチャネルが自らリスクをとってこなかった。例えば、本来手数料は店舗よりももっと低くていいはずですし、またオンラインでは、投信商品もロングテールで品揃えすることが基本です。そこのところがきちっと対応できているかどうか。
最近では、手数料は自由競争の世界に入ってきていますし、オンライン証券だけでなく、一部の地銀や、銀行でも、店舗の手数料とオンラインの手数料に差をつけて販売しています。
私がフィデリティに入社した2006年当時は、オンラインで投信を買う人は、投信を買う人全体の2%をきっていました。それが現在では、7%~9%ぐらいになっています。この成長はかなりのハイスピードといえますし、株のトレーディングでもそうだったんですが、勢いが付くと加速度的に上がっていきますから、今年から来年、再来年にかけてが投信のオンライン販売が本格化する、勝負だと思っています。
ネットの世界はとにかく先行者利益を得た者が勝つ世界ですが、きちっとしたサービス、きちっとしたマーケティングができれば先行者利益が出るということで、フィディリティとしても力を入れたいと考えています。
――ネットでの投信取引シェアは、どのくらいまで伸びるとお考えですか?
投信のネット取引の浸透率は、残念ながら株ほど高くならないと思います。投信商品そのものが株とは異なり、複雑ですから。それでも今後10年間で20~25%ぐらいまでは最低でも伸びると考えています。