グローバルな独立系資産運用会社フィデリティ・ワールドワイド・インベストメントの傘下企業として、「投信中心のオンライン証券」にこだわるフィデリティ証券。1997年12月の開業から13年で、投資信託預かり資産総額はオンライン証券業界3位クラスに成長した。同社の急成長の"秘密"は何か? 同社 マーケティング本部長の若林眞己子氏に話を聞いた。
1990年代後半から、投資信託のネット販売を開始
フィデリティでは英国、ドイツ、フランス、香港、台湾、インドで、個人投資家向けに商品およびサービスを提供するビジネスを展開している。運用会社でありながら直接(ダイレクト)投資家に商品およびサービスを提供、声を聞くというのが、フィデリティの重要戦略の一つだ。日本では1997年12月に開業、「フィデリティ・ダイレクト」というサービス名称で展開してきた。
フィデリティ証券は、フィデリティ・ワールドワイド・インベストメントの傘下企業として、投資信託を中心とした個人の長期的資産形成を支援するサービスに特化。運用会社傘下でありながら、自社の投資信託だけではなく、他社商品も幅広く取り扱っている。また、日本で唯一の外資系インターネット証券となっている。
今回は、2006年8月にフィデリティに入社し、同社の商品ラインナップなどの販売戦略を立案・実行してきた、同社マーケティング本部長の若林眞己子氏に、"投信中心のオンライン証券"にこだわる「理由」や、1人当たりのファンド預かり運用残高が300万円という高い顧客単価の「背景」、今後の戦略などについて、お話をお伺いした。
――フィデリティ証券は、ネットとコールセンターで投資信託を販売するというビジネスモデルの、日本での先駆者といえます。他社に先駆けて、そうした戦略を実践してきた背景は、どこから来たものでしょうか?
ほとんどの会社がまだホームページを立ち上げたばかり、という時代だった1990年代の後半に、すでに投信をネットで売るという試みを行っていましたが、そのアイデアは、すでに直販が急成長したいた米国から来ています。私は2006年入社なので伝聞ですが、立ち上げ時のスタッフも米国からノウハウを持ってきたと聞いています。
当時はまだADSL普及し始める前夜、ネット人口も限られている時代に、電子商取引で投信を販売するというのは、日本ではかなり斬新なアイデアでした。銀行などが投信販売を始めたばかり、という時代ですから、運用会社がネットで商品を直販をする、というアイデアは、当時としては相当思い切った戦略だった、と思います。
日本では2000年初頭には、投信ではなく株のほうでネット取引が本格的し、ネット証券各社の手数料競争が拍車をかけ、今では個人投資家の株取引量の約7-8割が、ネット取引になるというすさまじい状況が生まれました。その中で、投残念ながら投信のネット販売が脚光を浴びることはありませんでしたが、我々は当時から投信販売を軸にバーチャル販売を実践してきた先駆者的な立場にあったといえます。
商品群の充実図り、1年間で一気に200ファンドを追加
――現在も、投資信託を中心としていることに、変わりはないのでしょうか?
我々はフィデリティ・ワールドワイド・インベストメントの一員ですから、あくまでも投資信託ビジネスの軸に置いています。但し、デイトレーダーのような投資家ではなく、投信を資産運用のコアに置いている投資家への補完的なサービスとして、株取引も低い手数料で提供しています。
――開業当初から、投信の販売戦略という点で、変化はあったのでしょうか?
私は2006年8月に当社に入社したのですが、専門分野であるマーケティングという、本来お客様を中心に戦略を考える視点からすると、当時のフィデリティ証券には欠如している点がいくつかありました。
まず、お客様の側から見ると、必ずしもフィデリティの商品だけを購入したいわけではないということです。特に投資信託は長期の資産運用が前提になりますから、10年なり20年なりの資産運用を考えた時に、お客様のあらゆる投資ニーズの変化にきちっと対応できるような商品群のバラエティ が必要でした。我々のロジックで我々の目線で商品を売っていたというのが、まず第一の改善点だとだと気づきまして、フィデリティ投信の側からすると競合になりますけれども、他の投信運用会社の商品もフェアに扱いましょうということにしました。
そこで、2006年後半から2007年にかけて、約1年間に一気に200ファンドほど他運用会社の新しいファンドを取り扱うようにしました。当時は60本~70本のファンド数から、現在は約270本のファンドを販売しています。マーケティングのアプローチでは顧客のニーズがどこかにあるのか、が原点ですので、フィデリティの商品がお客様のニーズをすべて満たすわけではないとすると、足りない部分をどう補うか、という問いに対する答えは明らかでした。
その成果もあり、2006年8月時点で1ドル=100円計算で400億円程度だった預かり資産残高が、今では約1,000億円に成長しました。また、フェアに他の投信運用会社のファンドを入れることで、従来のフィディリティファンに加えて、これから投信を始めようという、これまでフィデリティになじみのない投資家も取り込むことが出来ました。その結果、非常に速いスピードで、預かり資産残高が実質4年で2.5倍にもなりました。