――実際にアニメを作るにあたって力を入れているのはどのあたりですか?
「力をいれたのは、りんの動きですね。これをわりとフルショットで拾っているんですよ。TVシリーズの場合、足元を切らないとけっこう大変なので、わりと避けているところがあるのですが、そういうところをちゃんと描いていかないと、りんのトータルとしての可愛さが表現できないのではないかと思います。そのあたりは、現場に大変な作業を強いることになるのですが、まずそこはやりたいなと。あとはセリフでいちいち全部を説明しない。ちょっと間を持たせることで、観ている人にも考える時間が生まれる。それはイコール大吉が考えている時間でもあるのですが、そういった部分で大吉と気持ちを共有してもらえたらいいなと思っています」
――そのほか、アニメとして描く上での苦労などはありますか?
「もうずっと苦労のしっぱなしですね。まともにやるとすごく大変なんだけど、でもやらないとダメだろうなっていう部分がたくさんある。そのあたりのバランスが大変です」
――時間やコストの問題もありますからね
「そうですね、でも、それをやらないと、自分がやりたいと思ったところにはいけないわけですよ。ただやっぱり期限というものもありますから、そのあたりのバランスに一番苦労しています」
――表現的に難しいところはどのあたりですか?
「いわゆる日常の芝居は、アニメになっても、当たり前に見えないとダメなんですよ。何の気なしに物を食べるという動作が、不自然に見えないようにする。そこが一番大変ですね。自然に見えて当たり前なのですが、アニメーターとして要求されるものはものすごく大変。でも、見る人とっては当たり前にしか見えないわけですから」
――非日常の当たり前でないもののほうが逆に表現しやすい?
「『うさぎドロップ』の場合、動きによるハッタリが一切使えないですからね。激しいところなんか走るところぐらいしかない」
――そのほか表現的に工夫しているところはありますか?
「子どもが着ている服の色は、画面から浮いてもいいからちょっと彩度を上げています。貧乏たらしくしないといいますか、楽しい感じを色彩のほうでもみせる努力をしています。ただ第1話は別です。喪服ですから」
――ちなみに今回の作品においてキャスティングはどのあたりまで監督がタッチなさっているのですか?
「りんを含めて子どもたちには子役を使うというのは最初から決めていました。あと、大吉をはじめ、メインどころのキャスティングに関しては大体見ていますが、音響監督さんに任せた部分も大きいです」
――子どもたちの役に子役を使うというのは、やはり自然な演技を求めてというところでしょうか?
「そうですね。作られた声よりは、その年齢にあった子どもの声のほうがいいだろうと。とりあえず今回はそれをやりたかったんですよ」
――子役を使うという点で苦労したところはありますか?
「子役を使うと決めた段階から、ある程度の大変さは予想していました。でも、実際にやってみると、想像していたよりも全然大変ではない。もちろん、子役の子たちは大変だと思いますが。ただ、最初に想像していたようなこと、たとえば収録時間が長いと泣いちゃうんじゃないかとか、拗ねて帰っちゃうんじゃないかとか、説明しても全然理解してくれないんじゃないかとか、そういった心配はすべて杞憂で終わりました。リアルさと芝居のバランスを含めて、本当にハマリ役だと思います」
――大吉役に土田大さんを選んだポイントはどのあたりですか?
「土田さんはオーディションではなく、デモテープを聞いて決めたのですが、わりとすんなりとみんなの意見が一致した感じですね。『大吉じゃん、これ』みたいな。本当にあっという間に決まりました」
――比較的、すんなりとキャスティングは決まった感じですか?
「全体的には、キャラクターと合う合わないといった観点で、わりとすんなり決まったのですが、正子という、りんの母親役を選ぶのがちょっと難しかったですね。正子は原作でも浮いている存在なのですが、やはりキャラクターとして作品の中でポツンと浮いてほしい役なんですよ。それを表現できる声って誰なんだろうってところで、みんなから話を聞いて、坂本真綾さんにお願いすることになりました」