アニメと実写の表現方法の差
アニメが先行している『もしドラ』だが、6月4日からは実写映画の公開もスタートする。同じ『もしドラ』という素材を用いながら、異なる表現方法がとられることについて、岩崎氏はどのように考えているのか? 「先ほど言ったことと少し矛盾するかもしれませんが……」と前置きしつつ、岩崎氏は次のように語った。
岩崎氏「最初の頃は、映画は映画ファンの方に観ていただき、アニメはアニメファンの方に観ていただこうと思っていたんですよ。でも、実際にアニメと映画があれば、互いが気になってくると思うんですね。アニメファンはやはり映画も気になるし、映画ファンもアニメが気になる。それによって、これまで住み分けられていたものの垣根を越えて、映画ファンはアニメを、アニメファンは映画を観て、互いを共有するような状況が生まれてくるのではないかと。『もしドラ』はジャガイモみたいなものだと思うんですよ。どう料理するかによって、味わいがまったく異なってくる。フライドポテトにするのか、マッシュポテトにするのか、それともカレーライスの中に入れるのか……。そういう形で、ひとつの食材が千変万化していく。そういう意味では、僕も小説という形で表現しているのに過ぎないわけで、小説にするのか、漫画にするのか、アニメにするのか、映画にするのか、いろいろな料理方法で、各料理人がジャガイモのおいしさをいかに引き出してくれるか、そんなところを楽しんでいただければと思います」
また、『もしドラ』という素材は、幅広い年齢層に支持されているが、それこそが岩崎氏の意図したものだという。
岩崎氏「最近、家族みんなで楽しめる作品がなくなってきた。それについて、価値観が多様化したからと言われていますが、今でも家族がみんなで楽しめる作品は可能だと思うんですよ。でも、それを口で言っているだけだと、ただの偉そうなヤツになってしまうので、じゃあ僕がそこにチャレンジしてやろうと。現代でも親子、さらにはおじいちゃん、おばあちゃんを含めた三代でも楽しめる作品が可能だということを証明したいという想いから、この作品を書いたというところがあります。もちろん、多様な切り口というのもありますし、友情や人の命の大切さ、あとは夢とそれが破れる現実みたいなもの、やはり、どの年代にとっても重要なテーマというものがあるわけなんですよ。そういうものをテーマにすることで、あらゆる世代に訴えかける。そういうことも考えました。特に子どもにとっては、勉強するなんてことよりももっと骨太のものを、僕はこの本の中で伝えているつもりです」
アニメ化における岩崎氏のイメージ
小説がアニメ化される。そのことによって、絵がつき、動きがつき、声がつく。アニメ化された『もしドラ』は原作者である岩崎氏のイメージに沿ったものなのだろうか? 主人公である川島みなみを演じた日笠陽子について、岩崎氏は次のように語った。
岩崎氏「これは新しい発見なのですが、実は僕自身、あまり声についてのイメージはなかったんですよ。なので、彼女の声を聞いたとき、『そうそう、こういう声なんだよ』とも思わなかったし、『これはちょっと違うな』とも思わなかった。それとは逆に、『ああ、こういう声なんだ』と納得する感じがありました。これは彼女の声がみなみにピッタリとあっていて、まったく違和感がなかったかもしれません」
日笠の演技について、さらに岩崎氏は続ける。
岩崎氏「みなみは喜怒哀楽がはっきりしている女の子なのですが、そういった喜怒哀楽をすごく自然に演じられているのが特徴的だと思いました。怒るときはすごく怒る声になるし、うれしいときはうれしい声になるし、がっかりしているときはがっかりしている声になる。喜怒哀楽が激しいみなみを、すごく自然に演じていらっしゃる。これはすごい高等技術だと思うんですよ。技術が高ければ高いほど、技術が高いことを感じさせず、自然に見せる。よく野球でいわれるように、ゴロをファインプレーのように捌くのは上手くない証拠だと。ヤクルトの宮本選手のように当たり前のように捌く。すごく難しいゴロでも簡単なゴロに見せるのが本当のプロなんだと。彼女はそういう人なんじゃないかと思います。難しい演技を簡単にやっているように見せているのが、一番すばらしいところで、誰もが憧れるすばらしい演技力の持ち主なのではないでしょうか」
一方、絵については少し厳しい表情を見せながら語る。
岩崎氏「絵に関しては、実はちょっと僕が思っていたのとは違っていたんですよ。僕は絵に関しては、自分で言うのもなんですが、専門的に学んできたところもあるので、うるさいんですよね。こういう絵がいいという確固たるイメージがある。アニメの動きや演出、声優さんの声などについてはあまり偉そうに言えないのですが、絵に関してだけは偉そうに言える部分がある。なので、絵については注文を出させていただき、それにご対応いただいたところもあります」