カシオにとって時計のデザインは「絶対的なもの」

――時計のフェイスに関連するところでは、バックライトに高輝度LEDを利用したG-SHOCKや、ブラックライトLEDによるBaby-Gのネオンイルミネーターなど「ライト技術」にも注力されていますね。

増田「これも機械式では不可能な、エレクトロニクスならではの表現ですね。高輝度LEDは、発光回路の進化で省電力性能が飛躍的に向上したこともあり、最近のモデルに搭載しています。現在は製品ごとにテクノロジーが不統一なところもありますが、フェイスデザインの重要なファクターとして考えているのは間違いありません」

高輝度の白色LEDを初めて採用したG-SHOCK「GD-100」

ブラックライトLEDと特殊蛍光体インクによって2つの表情を楽しめるBaby-G「BGA-131」

――新ブランド「SHEEN」(シーン)も本格的に始動されましたね。女性向けブランドの今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

増田「ただ時刻を知らせるだけでなく、女性ブランドならではの遊びといいますか、お洒落な演出を取り入れていきたいと思っています。SHEENの新モデルでは天の川をイメージしたデザインや流れ星の動きを組み込みましたが、ひとつの形ですね。フォーマルな雰囲気の中に堅苦しくない表現を盛り込むことで、デザイン性の高い製品を提供していきたい。"女性のアナログウオッチといえばSHEEN"という評価をいただけるブランドに育てたいですね。

天の川のイメージや流れ星の動きをデザインしたSHEEN「SHE-5514」(日本での発売は未定)

Baby-Gは、やはりスマートウオッチの搭載が将来的なテーマ。G-SHOCK同様の便利な機能に加え、女性の遊び心を惹きつけるアプリケーションなど、考えたいと思います」

――最後に、今や押しも押されぬカシオの看板ブランドとして成長した「G-SHOCK」の開発者として、腕時計についての想いをお聞かせください。

増田氏の語りからは時計に対する情熱が伝わってくる

増田「腕時計を語る上で絶対的なもの、それはデザインです。目に映る価値が満足感を与えてくれることは、おそらく未来永劫変わらない。でも、形だけでは本当のデザインとはいえません。"理由"があることが大切なんですね。この"理由"を与えてくれるのが"技術"です。機械式でもエレクトロニクスでも、高度な設計技術、加工技術、制御技術があってこそ、魅力ある時計を生み出せる。

フェイスデザインだけでなく、バンドも同じです。例えば、お客様から「カーボン風のデザインですね」と言われたら、「本当にカーボンがインサート成型されているんです。だから切れにくいんですよ」と言えるのが技術です。逆に、"カーボンがインサート成型されているから切れない"というだけでもダメで、そのカーボンが目に見えないと価値が伝わりません。これは私自身が長年やってきた中で学び、たどり着いた結論です」

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"デザインを語れない時計に価値はない"と言いきる増田氏。普段のにこやかで温厚な表情からは想像できない熱い語り口は、伝統的時計職人を思わせる気迫が感じられた。そう、増田氏の言葉通り、理想の時計を追い求める情熱は「機械式もエレクトロニクスも変わらない」のだ。

待望のスマートウオッチも年内には発売される予定だ。私たちの物欲を刺激してやまない、魅力あふれる腕時計の登場に期待したい。