――もうひとつは、バーゼルでも発表された"スマートウオッチ"ですね。

BASEL WORLD 2011でお披露目された"スマートウオッチ"のG-SHOCK「GB-6900」

増田「スマートウオッチの発想は、今までスタンドアローンで進化してきた腕時計を他のネットワーク機器と連携させることで、次世代の時計を模索するというものです。と言うと大げさに聞こえてしまいますが、基本はまず腕時計の正統な進化として、常に正確な時刻を刻み、さらにネットワーク機器と連携して新しい使い方を生み出すことなんです。

電波時計が開発されたのは、今から十数年前です。当時は、それ以外に時刻を自動修正する方法がありませんでしたが、現在は環境的にも選択の幅がどんどん広がっている。だったら、それを活用しない手はありません。他社製品では、人工衛星からの電波を使って時刻を合わせるものも出てきましたね。一方でスマートウオッチは、スマートフォンを通じて、正しい時刻情報を取り込むものです」

――スマートウオッチの可能性をさらに拡げてくれるのが、アプリケーションの存在ですね。マナーモード状態で置き忘れたスマートフォンを時計側から操作して、マナーモードを解除、コール音を鳴らして見つける「FIND-ME」のデモには、会場でも驚きや感嘆の声が多く聞こえました。

BASEL WORLD 2011では時計とスマートフォンを連携させるデモを実施

増田「普通の時計は、買った時点で製品に搭載されている機能がすべてです。ところが、スマートウオッチは、機能をアプリケーションとして"後付け"できる。時計としての可能性が大きく進化することが、開発を進めるうちに見えてきました。アプリケーションとやりとりをするメッセージやステータスを表示する窓、文字板のガラスをタップして操作するというインタフェースは、スマートウオッチの可能性を語るデザインともいえます。

とはいえ、最初からアプリケーションでの活用を考えていたわけではありません。開発は5年前(2006年)から始めていたのですが、当初は低電力の通信技術で普通の携帯電話とつなげることを想定していました。この技術がBlutooth Low Energyですが、コイン型電池ひとつで充電せずに通信可能で、腕時計の生命線であるデザインを壊さないところが魅力でした。だから前々からこの研究は進めておくべきと考えました。

腕時計の技術進化の歴史

"Bluetooth Low Energy"は低消費電力版のBluetooth

技術開発には先見性や長期の先行投資が必要で、いきなりやろうとしても間に合いません。Bluetoothのコンソーシアムに参加しながら、複数の企業と協力して時計用のプロファイルを作ってきました。そして時代の流れから携帯電話がスマートフォンになり、アプリケーションと組み合わせることで、新しい使い方の発想が次々に生まれています」

「スマートウオッチ」がG-SHOCKに搭載される本当の理由

――そのスマートウオッチですが、まずG-SHOCKに搭載されることが発表されましたね。

カシオ計算機が次世代腕時計"スマートウオッチ"と位置づける、Bluetooth Low Energy対応の第一弾。耐衝撃ウオッチ"G-SHOCK"の新製品として、2011年中の発売を目指すという

増田「こういった新しい技術や概念は、それだけを前面に押し出してもなかなか広がらないんですね。特殊なデジタルギアと誤解されてしまう可能性もある。

一時期、腕時計は携帯電話に駆逐されるんじゃないかといわれたことがありましたが、結果的には駆逐されなかった。理由は明確です。腕時計と携帯電話の時計では価値が違うから。腕時計は時間を知るだけでなく、ファッションであり、ステイタスでもありますから、携帯電話の"画面"では置き換えられなかった。デジタルギアとしてユーザーに受け取られてしまうと、単に機能面だけで価値を判断されてしまいます。

だから、カシオのデジタルウオッチの看板ともいえるG-SHOCKに、スマートウオッチを搭載する必要があった。G-SHOCKに載るということは、"これは時計ですよ!"という強いメッセージになりますから」

――なるほど。では、「耐衝撃性」をブランドイメージとするG-SHOCKとスマートウオッチの親和性についてはいかがでしょう?

スマートウオッチはG-SHOCKの付加価値。主役は"時計"であり"G-SHOCK"であるのだ

増田「G-SHOCKは耐衝撃性という視点からスタートしており、"従来の時計の常識を覆す"というパイオニア的な存在です。スマートウオッチの搭載は、次世代の腕時計の開拓をこのパイオニア精神を持つG-SHOCKが担うことを宣言しています。とはいえ、あくまでG-SHOCKの付加機能のひとつで、G-SHOCKがスマートフォンありきの時計になるわけではありません。"G-SHOCKが身に付けた新しい成果"と思っていただければと思います。この点はもっと伝えていかなければなりませんね」

――G-SHOCKとスマートウオッチの新しい魅力やイメージを世界に伝えるアプローチとして、「SHOCK THE WORLD」も有効活用できそうですね。

増田SHOCK THE WORLDOCEANUS PREMIUM PARTYTokyo Girls Collectionなど、イベントマーケティングの反応は大きいですね。ファンの方々にもっともっと製品を好きになっていただく、"ファン作り"のマーケティングを積極的に行う時計メーカーは他にありませんし。

SHOCK THE WORLDに関しては、昨年は23都市で開催しました。近年は欧米を発信地として、東南アジアが大きな盛り上がりを見せていますね。この勢いがネットを介して再び日本やアメリカに流れ込み、それがまたG-SHOCKの認知度を向上させるというシナジー効果を生んでいます。

SHOCK THE WORLDも今年で3年目なので、やり方を変えたいとは思っています。私は"3年ルール"と勝手に呼んでいるんですが、4年も5年も同じことをしていたら、必ず陳腐化してしまいます。一番調子がいい時に、逆に危機感を持って次の手を考えることがマーケティングにおいても重要なんです。もしかすると、来年のSHOCK THE WORLDは大きく変わるかもしれませんよ(笑)」……つづきを読む