限られた素材で異なる写真を撮影するテクニック

前記したとおり、滞在中はチームで行動するのがルール。なので彼らが撮影する写真はモデルもスタジオも同じだ。これでは販売する写真は似通ってしまい、「別行動をしたい」などと言い出すフォトグラファーが出てくるのではないかと疑問に感じ、iStockphotoのスタッフに質問してみたが、「彼らは写真の撮り方をたくさん知っているので、まったく心配していません」という回答だった。

この回答を聞いてから、撮影会の各所を見て、すぐに納得できた。モデルと撮影場所が同じでも、スタジオ内に用意された小物を使ったり、ポーズを大胆に変更させて、各フォトグラファーが異なるテーマで写真を撮影しているようだ。天気さえも演出で変えているというケースまであり、各自の工夫が伺えた。

男女のモデルを使った撮影風景。ついさっきまでのテーマは「恋人」だったが、次のフォトグラファーが提示したテーマは「家庭内暴力」

建物の前の歩道に出て撮影するフォトグラファー

上から水を捲いて雨を演出

顧客が欲しがる写真を的確に撮影する技術

今回の撮影会に参加したモデルは撮影後に、「今回の撮影現場は難しかったです。普段、スチル撮影の仕事をするときは視線をカメラのレンズに向けるように指示されるのですが、今回のフォトグラファーには宙を向くように指示されることもありました。あたかもそこに人がいるかのように、あえて空間を作るポーズも要求されました」と語っていた。

ストックフォトは合成写真の素材としても多く使われているため、キャッチコピーや他の素材を合成しやすいように、あえて空間を作る技法も多く用いられている。フォトグラファーの頭の中には撮影前からすでに写真のコンセプトが決まっているため、そのような指示ができるのだろう。筆者が見学した撮影現場では、何に使うのか予想できるポーズもあれば、まったく不明なポーズもあった。しかし彼らは「売れる写真」を撮影しているはずなので、きっと何らかのコンセプトに基づいて撮影しているに違いない。完成した写真がiStockphotoにアップロードされる日を楽しみにしたい。

ストックフォトグラファーにとって重要なのは、撮影技術よりも購入者が欲しがりそうな構図を考えるアイデアなのかもしれない。iStockphotoのスタッフは「彼らはひとつの写真を10枚売りたいわけではありません。1,000枚以上売りたいのです。だから、たくさんの人が使いやすいような写真を好んで撮影します。今回参加したフォトグラファーのなかには、たった1枚の写真で渡航費を稼いでしまう人もいます」と語った。