彼らの来日目的は「観光」ではなく「仕事」
当日の撮影は午前9時から始まった。4階建ての貸しスタジオは、ビル一棟まるごとiStockalypseで使用される。建物内には大小さまざまな撮影スタジオがあり、それらに加えて屋上や車庫、建物前の歩道も使われた。このビルに集まったフォトグラファーは30名弱。ビル一棟貸し切り状態だが、すべてのフォトグラファーが一斉に撮影できるほど広くはない。そのため、あらかじめ決められたスケジュール表によって各フォトグラファーは撮影を開始する。
会場は海外の旅行客に人気の雷門のすぐ近くだが、参加したフォトグラファーたちは誰も興味を示さず、スタジオにこもって黙々と撮影を行なっていた。待機中も他のフォトグラファーが撮影する様子を見学したり、別のスタジオの下見を行なうなど真剣そのもの。まったく観光で来ている様子は感じられない。
iStockphotoのスタッフによると、「彼らは遊びできているわけではありません。iStockalypseは完全招待制ですが彼らの渡航費は自費なのです。ここで売れる写真をしっかり撮影しておかないと彼らは赤字になってしまいます。したがって我々スタッフも、彼らの要求に応えられるように、事前にスタジオやモデルの確保など、必要以上の準備を行なってきました」とのこと。
この撮影会が「招待制」だと聞いていた筆者は、彼らの主な目的は観光で、そのついでにストックフォト用の撮影をすると勘違いしていた。もちろん、チームによっては休息日を作って観光に出かけることもあるようだが、その観光中も常に被写体を探し続けているとのこと。アメリカから参加したあるフォトグラファーは、東京を離れて鎌倉にまで行ってきたとのこと。彼は「鎌倉の景色はすばらしい。古い寺院も迫力があって気に入った。たくさんきれいな写真が撮れたよ」と満足げに語っていた。
プロだけで作るスムーズな撮影現場
彼らは基本的に個人で参加しているため、アシスタントは同行していない。なので、撮影中は他のチームメンバーが照明やレフ板を持ってサポートを行なっていた。撮影するフォトグラファーも、レフ板を持っているアシスタント役も世界のトップフォトグラファー。このような人間たちがチームを組んで撮影に挑んでいるから、とても仕事が早い。撮影者が特に指示を出していなくても、レフ板を持っているアシスタントは素早く動いて照明を決めるし、場合によってはアシスタント役がアイデアを出してライティングを変更することもあった。そのため、ひとりが連続して撮影できる時間は約30分だったが、このような短時間でも十分な様子だった。筆者も数え切れないほど撮影現場に立ち会ってきた。しかし、今回のようなスムーズな撮影現場はほとんどなかった。