HDR技術が新たな写真のトレンドとして認知されるようになったのは、「2005年に登場した、Adobe Photoshop CS2に"HDR合成"が採用されたことも大きく影響しているはず」と保坂氏は言う。パソコンでHDRファイルをつくれるようになったことで、HDR作品づくりはコアなデジタルカメラユーザーを中心にじわじわと浸透。保坂氏がHDR写真に興味をもったのもちょうどこの時期なのだ。
「ネガが山のようになって、もうネガ辞めようかな(笑)と考えていたときに偶然、『10枚の「ゴッサム・シティ東京」』というHDR写真の記事をみつけて。この写真だったらデジタルカメラで撮る意味があるな、と思ったんです。こういう表現はデジタルでしかできないと」。そうして始めたのがきっかけで、すっかりはまってしまった。「僕にはこれしかないんで」と言葉を続ける。
「写真」と「絵」のせめぎ合い
東京生まれ、東京育ちの保坂氏は、「都市」をテーマにしたモノクロHDR作品で知られるが、当初はカラー作品を手がけていたそう。「2007年に行った写真展は評判がわるかったです。こんなの写真じゃない!って(笑)。でも、個人的にはHDR写真ならではの"写真と絵のせめぎ合い"は絶対に面白いという想いがあったんです」。
"鳴かずとばず"の写真家活動に、光が差したのが2008年4月。エスクァイア日本版デジタル写真賞'07-'08グランプリ受賞により、"本格的な"写真家としての道が開かれた。「実は、それがエスクァイア日本版が開催する最後のデジタル写真コンテストだったんです。カメラメーカーのスポンサーがつかなかったことも僕にとっては追い風となった面はあるかもしれません」……「デジタル写真の見方」が変わってきた