ハイブリッドGPSを搭載した「EXILIM Hi-ZOOM EX-H20G」が、ついに発売された。本機は、背面液晶に地図情報と撮影した写真のサムネイル、移動経路を関連付けて表示できる初のデジタルカメラだ。これまでのポータブルGPSが抱えていた測位の難しさやバッテリーの問題などを大きく克服したアイディア、そしてEX-H20Gが可能にする新しいカメラの楽しみ方について聞いた。

正確さとバッテリー寿命を両立するアルゴリズム

――GPSカメラについては、ずいぶん前から研究されていましたよね。

カシオ計算機 QV事業部 商品企画部 第二企画室 萩原一晃氏

萩原「そうですね。我々QV事業部とは別の、もう少し長期的な視点で技術研究を進める部門で何年も研究を続けていました。特に、製品のウリであるGPSとモーションセンサーとを組み合わせたハイブリッドGPS、そのモーションセンサーの部分やアンテナの感度向上にじっくり時間をかけていたんです」

――単に「GPSを搭載しました」では製品にならない、と。

萩原「はい。カーナビなどでは一般的なものでしたが、こういった"手で持ち歩く機械"になると課題が多いんです。電池寿命や、GPSの電波を受信できない屋内利用時はどうするとか、逆に屋内から屋外に出たとき測位に時間がかかるとか…。これらの問題をクリアしなければ、いい製品にはなりません。本当に"GPSを積んだだけ"になってしまうのです」

――カーナビも、トンネルでは動かなくなってしまうものがありますね。屋根があるとGPSは使えませんから、結局家の中では使えないんじゃないか、と思ってしまう。これはどうクリアしているのでしょうか。

萩原「それを解決するのが、先に述べたハイブリッドGPSです。GPSの電波を受信できないときは、モーションセンサーを使って位置を測定しています。モーションセンサーは加速度センサーと方位センサーで構成されているのですが、これを使ってカメラの揺れや動いた方向を感知して、おおよその位置を算出しているのです」

「EXILIM Hi-ZOOM」シリーズの新モデルは、光学10倍ズーム搭載の"旅カメラ"「EX-H20G」。画質劣化を抑えて約1.5倍までズームできる「プレミアムズーム」も採用

――なるほど、モーションセンサー測位には多少の誤差が出る可能性がありますよね。その場合、ずっとモーションセンサーだけで測位を続けていた場合、だんだんずれて行ってしまいかねないですね。

萩原「そこで、屋外に出てGPS受信状態になったときに、その正確な値をもとに、室内で撮影した写真の(モーションセンサーが記録した)EXIFデータの位置情報を補正(上書き)するんです。EXIFの撮影情報だけでなく、モーションセンターで測位した地図上の軌跡や移動経路についても、外に出てGPSを受信した段階で補正します」

――記録済みのデータを補正するという発想は新しいですね。ところで、カメラの電源がオフ状態でもGPSの電源はオンになっているんですよね。消費電力の問題はどうなんでしょう?

萩原「これは重要な問題でした。GPSは、日頃から常に測位を続けて新鮮な位置情報をキープしておく必要があるんです。そうしないと、いざ使うときに位置を測ろうとしても1分くらい時間がかかってしまう。しかし、ずっと動かしておくと消費電力が問題になってきます。ちなみに、他社製品では電源オフ中は測位しないものや、オフ中も定期的に測位しようとするものがあります。とはいえ、しばらく使わずに机にしまい込んでいるときにも、時々目覚めて測位していると、いざ使いたい時に電池がからっぽになってしまうかもしれません。それでは困りますしね。

このジレンマを解決するのが、ハイブリッドGPSのモーションセンサーなんです。電源オフではあっても、揺れが感知できれば、それは持ち運んでいるということですよね。ということは、そのうち使われる可能性が高い。じゃあ測位しておこう、とカメラが判断するんです。一方、揺れが感じられないなら、どこかに置かれてしまっている。それなら測位は不必要だな、と判断する。こういった仕組みを作ることで、電池寿命とうまくバランスさせています」

本体上部の左側に「地図ボタン」と「現在地ボタン」を備える

――なるほど! 技術の連携のなせる技ですね。このようなハンディな端末ではベストな仕組みだと思います。GPSをオフにもできるんですよね。

萩原「できます。飛行機の離着陸時にはオフにしてください。GPSのオン・オフ、写真に位置情報を埋め込む・埋め込まない、移動経路を残す・残さないが個別に設定できます」……写真が繋がると、「旅の輪郭」が見えてくる