――ところで、監督自身は家計簿をつけてますか
森田「そんなもの怖くてつけられませんよ(笑)。競馬、パチンコ、麻雀……僕の場合、支出のほとんどをギャンブルが占めてますから」
――失礼ですが、今年、還暦を迎え、監督の中で何か心境の変化はございますか?
森田「全然変わらないです。むしろ『還暦』って言葉を口にするのが怖いですよ。つい最近まで『若手監督』って呼ばれてたのに(笑)。極端な話、駆け出しの頃と気持ちはまったく変わってないですよ」
――監督にとっての創作意欲の源泉、ならびに原動力を教えて下さい。
森田「ルーティンワークは絶対に嫌ですね。誰でも出来るようなことをただやるのは嫌です。何かをやるからには常に新しいコンセプトが欲しい。それが出来なくなったらいつでも辞める気構えはあります。言葉は悪いけど、いつまでも『あのジジイ、何であんなに若いんだ』って言われるような監督になりたいんですよ。『間宮兄弟』だって50代で撮っています。年齢なんて関係なく新しいことにどんどんチャレンジしていきたいですね」
――監督ほどのキャリアを重ねながら、改めてそう言い切れるのって素晴しいと思います。
森田「僕の場合、デビューが特殊でしたから。8mmからいきなり劇映画でしょう。『監督修行をしないでデビューする映画監督が最近多いですが、どう思いますか?』ってよく取材で聞かれるんだけど、僕がそうだから答えようがないんですよね」
――話は変わりますが、最近、気になるコトやモノは?
森田「iPadかな。発売当時マスコミがけっこう騒いだけど、あれ、訳分からなくて買った人が今どうしてるのかなって興味ありますよね。今ごろ悩んでると思いますよ(笑)。みんなこぞって『すごい!』って報道してましたけど、実際には説明書があるわけでもないし、iTunesがなければ、いや、そもそもパソコンがなければどう使うんだって話じゃないですか。一応、僕も持って楽しく使ってますけど、そこらへんのこと知らないで買った人、絶対にいますよね(笑)」
――しかしながら、新しい技術やツールの登場はこれからクリエイターを目指す人にとっては大きな追い風となると思います。
森田「それはすごく実感します。映像に関しては昔に比べて確実に動画媒体が増えましたよね。ただ、それなのになぜ若い人がもっと出てこないんだろうとは思います。ネットにブログ映画館みたいなものを作って、そこで自分が撮った動画を流すだけでもいいじゃないですか。100万円もかければ充分いい映像作品は撮れますから。もし、それが成功したら映画業界はあ然とするでしょうね。僕はこれから先、そういった新しいことを実現する才能を持ったクリエイターがもっと出て来ると思うんですよ。世の中には絶対すごいヤツがいますから」
このように、とても60歳とは思えない若々しさでインタビューに答えてくれた森田監督。良い意味で巨匠然としていない、いつまでも変わらない瑞々しさこそが森田監督の魅力であり、それが監督の数多くの作品にも前向きなメッセージとして込められているのではないだろうか。
(C)2010「武士の家計簿」製作委員会