――直之の父・信之(中村雅俊)と母・常(松坂慶子)もいい味を出してました。

森田「僕の中では堺さんと仲間さんの夫婦に対し、先輩夫婦として中村雅俊さんと松坂慶子さんがいる、という相似形にしたかったんです。ですから二組を対比しながら見るとまた違った味わいがあると思いますね。世代交代と言うと大げさだけど、年齢を重ねたからこそ演じられる役ってやっぱりあるんですよ。信之と常に関しては非常にほんわかとした、一度頂点に立った人間のやわらかさを出したかったので、そこは中村さんと松坂さんにキチンと伝えましたし、見事に演じていただきました」

――時代の変化と並行した「世代交代」も作品の軸だと思います。

森田「あの頃、確かに時代は劇的に変わりましたけど、この物語は時代を変えた人間の話ではありません。にもかかわらず、時代の変化の影響を少なからず受けているし、親子の確執があるところが自分でも面白いと思います。幼い頃から父に厳しくそろばんや論語などを教わってきた息子が、新しく到来する明治の時代に活躍できたのは、父の教育があってこそなんですよね。その意味では、直之の息子である成之(伊藤祐輝)と大村益次郎(嶋田久作)が向い合って語り合うシーンはかなり思い入れを込めて撮りました」

――そのほかに監督の中で印象深いシーンやエピソードはありますか?

森田「ロケ地である金沢市で、地元のエキストラのみなさんにご協力いただいた一揆のシーンは印象深かったです。ストーリーの都合上、短い時間の映像でキッチリと見せなければいけなかったのですが、みなさんとても頑張ってくれました。結局、芝居って『気持ち』なんですよね。野球の応援と同じで、数や量よりも『気持ち』が見る人を高揚させる。暗い夜の撮影で顔もほとんど見えなかったですけど、あのシーンは撮っていてしびれましたね」……続きを読む