念願のレユニオン島へ
マダガスカル東方にあるレユニオン島。佐賀県より少し大きいという程度のこの島に渡ったきっかけは、エルサルバドルの国立研究所勤務時代に遡る。コーヒーの遺伝の研究をしている際に、レユニオン島に突然変異種のコーヒーの木があったことを知った。そのコーヒー豆はとても香り高く良質だったが、生産性の低さから絶滅したといわれていた。もう20年も前のことだが、川島さんの中ではずっとこの豆の存在が気になって仕方なかった。
1999年にレユニオン島へと渡った川島さんは、現地の人々にその豆の事を聞いてまわるが、誰一人として知る者はいなかったという。島はさとうきび畑で覆われ、コーヒー産業の気配もない。レユニオン県庁で調べると、19世紀でこの島のコーヒー産業は消滅してしまっており、コーヒーの木すら残ってないとのことだった。愕然としつつも一縷の望みをかけ、島中を探し回ったが数本のコーヒーの木が見つかっただけでお目当てのものではなかった。
栽培方法さえ手探り
落胆の中、赴任先のハワイに戻るが、翌年になって「木が見つかった」との連絡が入る。再生プロジェクトにはフランス本国政府も資金援助し、遂に本格始動となった。しかし、何しろ絶滅したといわれていた品種だけに、栽培方法や病気への対策、加工方法など、一体何が適しているのか誰一人分からない中で手探りでのプロジェクトの遂行となった。
川島さんの指導や現地の農家の協力の甲斐あって、2006年から本格的に収穫が始まり、翌年には65年ぶりに復活を果たした。この豆こそが前述の「ブルボン・ポワントゥ」である。川島さん曰く、「甘い印象的な香りがすばらしく、上品な甘みと酸味がすばらしいコーヒー」。この貴重な豆がUCC上島珈琲では2007年以降、毎年春にこの豆を限定発売され、好評を博している。
「残りの人生は好きなことを」
川島さんはブルボン・ポワントゥのデビューを見届け、26年間在籍したUCCを2007年8月に退職している。「僕の人生、始めの1/3は学生時代も含めて勉強・研究の日々。次の1/3はUCCでコーヒー栽培に捧げた。残りの1/3は好きなことをやって生きていきたい」。
そして立ち上げたのがコーヒー豆の販売会社ミ・カフェート。「コーヒーをワインに匹敵するような価値の飲み物にしたい」。そんな想いで、これまでの経験をもとに最高品質のコーヒー豆シリーズ「グラン クリュ カフェ」の展開を開始した。
単に豆を輸入するだけではなく、栽培や収穫段階から現地農園と協力し、自ら設定した厳しい基準をクリアした豆のみを扱う。もちろん技術指導のために、川島さん自身も現地へと飛ぶ。収穫された豆は厳しい管理下で精選され、輸送時の環境面を考え敢えてコストの高い航空便で輸入する。
焙煎後は鮮度を保つため、独自に開発したシャンパンボトルに入れて販売。200gが1万500円と高価だが、発売に至るまでの手間隙を考えれば納得が行くし、何しろその味に感動して多くの人々が購入していくのである。