AdobeはGPUパワーをビジュアルコンピューティングに活用する研究の一つとして複眼レンズ(Plenoptic Lens)搭載カメラとそのビジュアライゼーションに関するデモを行った。
これは「ライトフィールドカメラ」(Lightfield Camera)とも呼ばれ、次世代の写真技術として昔から研究されてきたものだ。一般的な写真は、そのシーンの光景をある特定のパラメータ(アーティスティック志向だったり、人間の目で見た情景に近くなるように調整したり)で撮影される。
しかし、実際にそのシーンには無数の方向の光や、あるいは非常に暗い光から、強烈に明るい光までが混在している。ライトフィールドカメラとは、そのシーンのそうしたあらゆる光を映像としてではなく光の情報として記録してしまおうという撮影装置になる。
AdobeがデモンストレーションしたものはCCDやCMOSなどのイメージセンサーにマイクロレンズアレイ(MLA)を貼り合わせたもので、多方向からの光を二次元配列された画素に記録する方式で、突き詰めて言えばMLAを貼り合わせた以外に普通のカメラと違うところは少ない。
撮影した映像は、このMLAを通ってきた異様な見栄えのものになる。
しかし、このMLA上の各レンズは、その光線経路のプロファイルが明かであるために、これを逆算することで、MLAを通ってきた範囲の光であれば、任意の方向や任意の奥行きの光景を"写真として"再構成できる。
焦点位置を変えたり、あるいは視線方向を変えた写真を再構成して作り出すことも出来るし、例えば金網越しに撮影した、金網が前面を覆い尽くすような写真から金網を消し去った写真を再構成することもできる。なお、ステージ上では、その光景の奥行き方向の光線達を視差に置き換えて立体写真を作り出すデモが行われた。
このPlenoptic Lensカメラについての技術解説セッションも行われたので、より詳細については、後ほどレポートしたいと思う。
最後に公開されたのは心臓の外科手術をGPUコンピューティングで支援するという話題だ。
心臓の外科手術は様々な先端手法が考案されているが、一般的には患者の心臓を停止させ、代わりに人工心臓で患者の生命を維持させる手法だ。しかし、この方法では、患者の心臓が再始動しない事故も多く見られ、だからこそ心臓の手術が難しく、高い技術力と高価な設備が必要になってその費用も高価になってしまうという現実がある。また、患者が子供の場合などは、その生命力のか細さから、胸を切開して手術すること自体が危険だとされる。
カリフォルニア・パシフィック・メディカル・センターのMichael D.Black博士率いる研究開発チームは、これに変わる画期的な手術を考案した。それが、ロボットアームとロボット内視鏡を用いた、胸を切開しない心臓手術だ。しかも、人工心臓を用いず、患者の心臓を動かしたままで手術を行う。
これには、内視鏡で捉えたリアルタイムの心臓映像の動きをリアルタイム解析して、ロボットアームを心臓の脈動パターンに追従させて施術するという画期的な技術だ。
例えば心臓が膨らめば、その動きにシンクロしてロボットアームは後退し、心臓が縮めば、ロボットアームは前進する。なんと、この心臓の動きのモーション解析をNVIDIAのGPUを用いて行っているというのだ。
担当医は、立体視ディスプレイを見ながら手術をすることになるが、そこに描き出される心臓の映像は全く静止した状態に見える。このため、極めて安定した治療が行えるというわけだ。
「この技術を実現させるには、早いスピードで動く心臓の映像をリアルタイムに解析し、同時にロボットを制御させるという圧倒的なコンピューティングパワーが必要になった。これは現行のマルチコアCPUでは到底実現が出来なかった。GPUコンピューティングによって初めて実現された技術と言ってもいい」(Black博士)
今後、我々の命がNVIDIAのGPUに助けられる日が来るかもしれない。