NVIDIA社長兼CEO、ジェンスン・フアン(Jen-Hsun Huang)氏による基調講演後半は、GPUテクノロジーを採用した最新製品や最新研究の紹介に当てられた。本稿では、それらをレポートすることにしよう。
まず最初に紹介されたのは「CUDA-x86」だ。これはHPC向けコンパイラを開発するPGIが商業ソフトウェアとしてリリースしたもので、CUDAアプリケーションをNVIDIA GPUが搭載されていない環境でも動作できるようにするものだ。パフォーマンス的にはGPUで実行した場合と比較すれば劣ることにはなるが、「CUDAアプリケーションがどの環境でも動作する」というソフトウェアの頒布性、動作保証性において高い価値を持つ。
続いて、The MathWorksからMATLAB向けにCUDAアクセラレーションサポート付きの並列コンピューティングツールがリリースされることがアナウンスされた。学術系の現場ではCUDAの浸透力はかなりのものなので、学術系ユーザーの多い数値計算ソフトウェアのMATLABがCUDA対応になったことは、ごく自然な流れとも言える。
新薬開発や病気のメカニズム解析のための物理シミュレーションをいまや分子レベルで行うことが出来るのだが、この膨大な演算を行うソフトウェアに「AMBER」というソフトウェアがある。このAMBERの最新版、AMBER 11が、マルチGPUに対応したことが今回、アナウンスされた。
グラフは24,000個の分子からなるタンパク質が水に溶ける様をシミュレーションさせた場合のパフォーマンスを表したものだ。
「8GPUのパフォーマンスがおよそ192基のクワッドコアCPUからなるスーパーコンピュータのパフォーマンスと大体拮抗している……と言うことを表すグラフだが、ここから全てが分かるわけではない」(フアン氏)
実は、この192基のクワッドCPUからなるスーパーコンピュータはテネシー大学の「KRAKEN」で、その物理的な大きさが全く違うのだ(写真)。消費電力、物理的スペース占有面積を比較すればどちらが優秀かは一目瞭然だ。
機械デザイン向けの熱構造解析シミュレーションソフトウェア「ANSYS MECHANICAL」のリリース13がCUDAに対応したことがアナウンスされた。まだ開発途中だとのことだが、ANSYS MECHANICALをXeonクワッドコアCPUで実行させたときと、CUDA対応版をTeslaで動作させたときのパフォーマンス向上率は2倍以上だという。最終的な調整を終えれば、この向上率はさらに伸びるとのこと。「2倍以上」というパフォーマンス向上率は少ないと思われるかも知れないが、異なる材質からなる数百もの航空機の耐久テストなどは一度シミュレーションを仕掛けると結果か出るまでに1週間以上掛かる場合もあり、これが数日に短縮できるということは、非常にコスト削減に向上するのと、デザイン変更への柔軟な対応も可能になるとして価値の高いものである、という認識のようだ。
DCCツールメーカーAutodeskとNVIDIAとのコラボレーションは、3DsMaxに対しても大きな変革をもたらした。それは、プラグインレンダラーとしてMental Images社(NVIDIAの完全子会社)の物理ベースレイトレーシングレンダラの「iray」が提供されることになったのだ。当然、GPUアクセラレーションに対応しており、ものの数秒でirayでレンダリングされたプレビューが表示される。レンダリングが完全に完了するまでは数分以上が掛かるが、ほぼ完成に近いプレビュー画面が出るまではわずか数秒で済むため、インタラクティブ性を保ちつつ、最終的なレンダリング結果をイメージしながら3DsMax上でのプロダクションが行える。
このirayレイトレーシングレンダラは、クラウドでのレンダリングにも対応しているため、データをひとたびサーバーに渡してしまえば、Webブラウザ上から、インタラクティブに視点を変えてレンダリング結果を確認したり、あるいはシーンの編集等までが行えると言うデモも行われた。