ドコモは高速大容量の3.9GであるLTEを今年中にスタートさせる。今年度は350億円の投資を行い、当初3年間では3,000億円を費やして環境を構築していく。すでに、3Gネットワークの構築で人口カバー率100%を達成しているドコモは、今後のHSDPA増設の代わりにLTEを導入し、ドコモ全体の投資額は変えずにLTEへの移行を進めていく。

LTEの導入はauもソフトバンクも行うが、ドコモより遅れてauが12年、ソフトバンクが13年ごろとしているものの、その普及に10年程度が必要という見解は3者とも一致している。2Gから3Gへの完全移行にも10年程度がかかっていることなどが理由で、当面は3GとLTEが併存する形になる。そのためauとソフトバンクでは1~2年の遅れは問題にならないと見ており、両社はトラフィックの問題に対する対策としては別の方策を検討している。

小野寺社長は、そもそもトラフィックをさばくために通信のキャパシティを増大させる方法は「基本的に3つしかない」と指摘する。使用できる周波数帯を増加させること、利用効率の良い方式を採用すること、そして周波数の繰り返し利用を増やすこと、の3点だという。ドコモのLTEはこのうちの2番目の対策だが、auが採用するCDMA2000 1x EV-DO方式でのキャパシティに比べて「すべてがLTEになっても単位周波数当たり5倍程度しか改善しない」(小野寺社長)。しかも当面はLTEと3Gを併用することから、当初は3倍程度しか効果がないという。

1つの方策が、ソフトバンクとauが始めたフェムトセルだ。圏外やつながりにくい家庭に小型基地局を設置して携帯電波を発射し、通信網は固定回線を使うというもの。これによって現在は屋外基地局が最小でも半径500mの範囲までしか増やせず、それより狭い範囲に設置しても効果が出ないのに対して、より密度が上げられ、3点目の周波数の繰り返し利用が増大する。特にauでは、フェムトセル用に2GHzの周波数が割り当てられており、これを屋内10mの範囲に発射することで、屋外の電波と干渉せず、その家庭内だけしか利用されないため、CDMA2000 1x EV-DO方式の通信速度の理論値(下り最大3.1Mbps)に近い速度が出るという。

さらに小野寺社長と松本副社長の一致した対策が無線LANの利用だ。特にソフトバンクは無線LAN対応端末を拡大し、さらに公衆無線LANスポットを次々と増やしている。家庭や店舗への無線LANアクセスポイントの無償提供なども積極的で、「トラフィック全体の8~9割ぐらいを無線LAN経由で有線(の固定回線)に逃がす」(松本副社長)考えで、モバイル通信と無線LANが「車の両輪」として機能すると話す。

小野寺社長も無線LANの有効性は認めるが、「無線LANのキャパシティの問題も出てくるだろう」と指摘。1つの無線LAN APに同時接続数が多くなると速度低下や通信できないといった状況に陥る可能性があるとして、「将来的には無線LANにもスピード問題、キャパシティ問題が出てくるのは間違いない」(小野寺社長)。KDDIでは無線LANの混雑度を測定してすいているAPに自動接続するソフトウェアを開発しており、今後ルーターや無線機器に導入するための実用化に向けた検討を進めていく計画だ。

「東京・中野区17.5万世帯に将来割り当てられる周波数を含めてすべて提供しても、同時利用すると279kbpsしか出ない」(同)ほど携帯の電波は逼迫しており、これを30Mbpsまで拡大しようとすると「(現在の226.7MHzに対して)48.8GHz幅の周波数帯域が必要になる」(同)。

そのため、固定回線につながる無線LAN、フェムトセルが必要というのが小野寺社長と松本副社長の見解だ。

さらに小野寺社長と松本副社長が指摘するのは、今後開始が予定されているモバイルマルチメディア放送だ。現在ドコモ陣営の「マルチメディア放送(mmbi)」とKDDI陣営の「メディアフロージャパン企画」が12年の周波数割り当てを競っているが、小野寺社長は、「有料放送を流すだけなら意味がない」と指摘。IPデータキャストによって一斉に配信し、登録ユーザーだけが表示される仕組みなので、大容量の同時配信ができる。「"放送"とついているから誤解されるが、"モバイルマルチメディア同時通信"と考えれば、使い方として大きなものがある」(小野寺社長)としており、「通信は1対1でやらなければならないことをやる」(同)と棲み分けができる。松本副社長も「同じコンテンツをユーザーが欲しいというなら、ブロードキャストをしてキャッシュしてもらう方がはるかに合理的」としている。

こうした観点から、KDDIではモバイルマルチメディア放送のエリア設計において、地上デジタル放送が地上4mのアンテナ位置を想定しているのに対して、ワンセグと同じ地上1.5mで受信することを想定している。ワンセグも同様だが、データ通信にも利用するためには携帯並のエリア設計が必要で、「基地局数が増えて投資額が大きくなる」(小野寺社長)という。

ドコモの場合、建築中の東京スカイツリーを使い、大電力方式を使うことで、関東の1,600万世帯をカバーできるようにする。出力が高いために北関東までもカバーできるようになるとしている。