米Intelは5月11日(現地時間)、米カリフォルニア州サンタクララにある同本社で投資家向けの説明会「Intel Investor Meeting 2010」を開催した。現状のサマリーと将来の展望についての説明が主体のイベントだが、技術的に目新しいトピックは少ない一方で、金融危機前後でトレンドがどう変化したか、また今後の変化に向けてIntelがどのように戦略を練っているかがわかる点で興味深い。今回はAtomを中心としたコンシューマ家電の話題、そして金融危機後の成長戦略についてみていこう。

IntelがAtomで狙う市場

IntelがAtomプロセッサの本命とみている「Zシリーズ」の市場だが、現状ではNやDシリーズといった主にネットブックで利用されている製品の需要のほうが強く、どちらかといえば苦戦気味だといえる。日本ではVAIO Pなどの採用で知られる同シリーズだが、本丸であるスマートフォン市場の攻略はまだまだといったところだ。

理由はいくつか考えられるが、Atomの提供するパフォーマンスが市場トレンドよりもはるかに高いこと(最新のMoorestownが1.5~1.9GHz相当なのに対し、SnapdragonなどARM系は500M~1GHz程度)、省電力性、コストやコンフィグレーションの問題などが挙げられると考えられる。Intelもこれら問題を認識しており、Moorestownではパフォーマンスを向上させつつ、特に消費電力面の機能強化や一部機能(GPUやI/Oなど)のSoC化によるチップ点数の削減などで対応している。一方で米Intelウルトラモビリティ部門ジェネラルマネージャ兼シニアバイスプレジデントのAnand Chandrasekher氏が示したスライドによれば、Moorestownではハンドヘルドデバイスやハイエンドのスマートフォン、そしてタブレットPCなどがターゲットとなっている。これはメインストリームのスマートフォン市場からは外れており、市場規模としてはどちらかといえばニッチだ。話題のタブレットをターゲットに入れてこそいるものの、Moorestownはまだ同社が本来狙っている市場の攻略するだけの要求を満たしていないと自覚していることがうかがえる。潜在的な市場ボリュームとしては当然メインストリームのほうが大きく、同市場攻略の役割は次世代のMedfieldに委ねられることになる。

ここでもう1点興味深いのがMoorestownの市場ターゲットだ。Moorestownは特徴である省電力部分よりも、むしろパフォーマンスの部分を強調する売り方になっているように感じる。バッテリ駆動時間もさることながら、SunSpiderによるJavaScript実行ベンチや1080pの動画再生、PCライクな作業体験など、パフォーマンスに関するデモストレーションが多数披露されている。現時点でMoorestown搭載のスマートフォンがLGなどごく一部のベンダーからしかリリースされていない点を考えても、ネットブックライクな小型端末やタブレットPC等、スマートフォン以外のボリュームゾーン攻略を狙っている様子がうかがえる。一方でサポートされるOSはWindowsではなく、AndroidやMeeGoであり、自社がプッシュするLinux系プラットフォームを重視していることがわかる。

Menlow、Moorestown、MedfieldにかけてのIntelのAtomプロセッサ(Zシリーズ)のロードマップ。MoorestownでGPUや周辺I/Oを取り込みつつ省電力機能を強化し、Medfieldで製造プロセスを進めることでさらなる省電力化を実現する。ポイントは、世代を追うごとにターゲットデバイスの小型化が進んでおり、Medfieldでようやくメインストリームのスマートフォンに到達する

Moorestownで強化された省電力機能だが、ターゲットはどちらかといえばまだタブレットや高機能スマートフォンのレベルであり、どちらかといえば強力なパフォーマンス(例えば1080pのビデオプレイバックなど)のほうを前面にプッシュしている。一方でサポートOSはWindows 7ではなく、AndroidとMeeGoをプッシュしている