Light Peak
昨年秋のIDFで初公開された技術がLight Peakである(Photo07)。コンセプトはこのプレゼンテーションが示している通り、複数の銅線を使った配線を光ケーブルですっきりさせたい、というところにある。厄介なのは、様々な配線にこうしたニーズがあることである。そこでLight Peakでは、複数のプロトコルをまとめて取り扱えるような方式を実装した(Photo08)。
Photo07: これは昨年秋のJustin Rattner氏(Vice President, Director, Intel Labs and Intel Chief Technology Officer, Intel Senior Fellow)の基調講演のプレゼンテーション。 |
Photo08: 長期的にはPhoto07にあるように、100Gbps/100mを目標にするが、そのためにはそれだけ速度が出せる光トランシーバが必要となる。現状はまだ数Gbpsだから、100Gbpsとなると数十個×2のトランシーバが並ぶ羽目になるし、なので、まずは10Gbpsを目標にするということのようだ。 |
もっとも、実はこうした製品は数十年前から存在する。理屈は簡単で、要するに信号線の間にフォトカプラを挟み、更にその間に光ファイバを挟み込むという仕組みだ。「フォトカプラ?」と言われるかもしれないが、これはポピュラーな電子部品で、要するにLEDとフォトダイオード(光が入ると抵抗値が変わる半導体)を組み合わせたもので、ノイズアイソレーション(電源ラインなどのノイズを分離する)などに良く利用されるものだ。通常フォトカプラはワンパッケージになっているから分解は出来ない(というか、してはいけない)が、同等のLEDなどの光源(光トランスミッタ)と受光素子(フォトダイオードやフォトトライアック)などを使う事で間に光ファイバが挟みこめる。
ただし、この場合だと信号は一方向にしか伝わらないので、双方向接続が必要な場合はあらかじめ送受信を分離した上で、光ファイバを二組用意する形になる。この仕組みを使ったSCSI Extenderは80年代には既に存在しており、銅線を使う限り届かないような距離まで信号を引っ張りたいとか、工場など高ノイズ環境で配線が必要といった特殊な用途向けに広く利用されていた。
ただこうした製品は特定のプロトコルに依存したものになっているし、性能が特殊だからお値段の方も高価で、一般に利用できるようなものではなかった。Light Peakも狙っている部分は同じだが、
・一般ユーザーが利用できる価格帯
・複数のプロトコルを同時に利用できる
という点がこうした従来製品と大きく異なる部分だ。
ちなみにこの複数プロトコルについて、昨年Rattner氏が来日した折に、「この複数プロトコルというのは、例えばTCP/IP over SONETみたいに、複数のプロトコルを別のプロトコル上にカプセル化して伝送するイメージでいいのか?」と聞いたところ、「それは間違いで、我々はここにI/O Protocolは載せない」と明確な返事がかえってきており、さてではどんな形で複数プロトコルとQoSを実装するのか? と疑問だったのだが、それに関する詳細が今回若干ながら公開された。
まずはおさらいも兼ねて、そもそもの開発の動機である(Photo09)。要するに複数のI/Fを統合したい、という話である。これをまとめるために、光ケーブルを使う事でシンプル化できるのではないか? というのがIntelのアプローチである。ここで、既に存在する様々なプロトコルをカバーしつつ、将来に対するスケーラビリティを確保しよう、というのが狙いだ。これを実現するために、少なくとも10Gbps以上の帯域で、複数のプロトコルを同時に利用でき、しかも安価なケーブルをすることを想定している(Photo11)。
10Gbpsという数字はどこから出てくるか? というと、Usage Modelである(Photo12,13)。外部の高速ストレージ、あるいはDisplayを含む周辺機器全体をまとめて転送しようとすると、最低でも10Gbps必要となるという話である。これをどう実現するか? の最初のDemo Systemがこちら(Photo14)である。2004年のIDFのShowcaseで、TIが似たような事をしていた気がするが、
・帯域が10Gbpsになったので、DisplayPortの様な、より高速なI/Fも統合できる
・PCIeのケーブルは高価だが、LightPeakのケーブルはより安価に出来る
というあたりが異なる部分か。
Photo12: 2015年にはRead/Writeともに10Gbpsというのは、ちょっと数字が大きすぎる気はしなくもないが、2015年のオーダーならSATA/6Gの帯域を使い切る製品が出てきても不思議ではないだろう。 |
Photo13: こちらのUsageでは、特に携帯電話とかMedia Playerではこんなに帯域は要らない気はする。ところでPC-PC connectivityはEthernetのプロトコルで繋ぐことを想定しているのだろうか? |
そのLight Peakの最大の肝となるのは、安価なコネクタである。実のところ、従来から光ファイバそのものは十分に安かった。にもかかわらず、光ファイバを使った接続が高価だったのは、コネクタが非常に高かったからだ。これはまぁ当然な事で、S/PDIFの様にデータレートが低く、かつ到達距離も短くて許容される場合ならば、コネクタは安価なもので足りる。機械的精度が低いと、光ファイバと光トランシーバの光学中心がずれてしまいやすい(=光の伝達率が減るため、長距離に届きにくかったり、高データレートの場合にエラーがおきやすい)が、S/PDIF程度ならこれは問題にならない。ところが10Gbpsともなると、こーいうわけには行かない(Photo15)。これに対するIntelの回答が、光トランシーバを一体型としたケーブルである(Photo16)。このComponentが安価に量産できる目処が立ったことで、Light Peakの様な構成を安価に提供できそうな目処が立ったということらしい。ちなみに送受信ともに光ファイバが2本で構成されるあたり、当面光トランシーバは5Gbpsでの動作となるのだろう。
Photo15: この光トランシーバモジュールがなにしろ高い。規格とか購入数量で値段は大きく変わるが、例えばDELLが米国で販売している10GBase-SR(光ファイバを使った10Gbps Ethernetの短距離用)用のトランシーバモジュールは1個$409.99だそうである。大雑把に言って、1個1万以下ということはまずありえない。1本のケーブルに2つのモジュールが必要だから、これだけで2万は堅いことになる。精度を考えればこれは致し方ないのだが。 |