時代は異種混合コンピューティングへ~ただしCPUとGPUを融合させるソリューションに懐疑的な立場をとり続けるNVIDIA
この他、Kirk氏はGPGPUの応用先として物理シミュレーションを挙げた。
その代表事例として示したのがCUDA上で実装されたNVIDIAの物理シミュレーションエンジン「PhysX」だ。
このPhysXの応用先の一例として人体の自然なモーションをモーションキャプチャなしで、人体構造と運動学の見地から算術合成させるNATURALMOTION社のモーション生成ミドルウェアのデモを公開。
NVIDIA自身としてはPhysXを活用して多様なシミュレーションエンジンを構築できる上層フレームワークAPEXを利用した流体物理シミュレーション技術を開発し、これをゲームスタジオに提供している。2010年初旬にカプコンから発売予定の「DARK VOID」のPC版では、主人公が装着しているロケット推進ガジェットの排気ガスの振る舞いを、このAPEXベースの流体物理シミュレーションで行っている。
動画 |
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この流体物理シミュレーションが早くもゲームで実装される |
ここまでで分かるように、「ハードウェアとしては今までもそしてこれからもGPUはGPUだが、CUDAというソリューションによってGPUがGPGPUとして活用でき、これが多様なコンピューティングテーマを加速する」…というのが今回の講演のKirk氏からのメッセージと言うことになる。
Kirk氏は、最後に、2015年の近未来におけるCPUとGPUの性能向上立を予測したスライドを示した。
Kirk氏はCPU単体は、今後も年率+20%(=×1.2)で性能が強化されると予測し、CPU+GPUという異種コンピューティング環境としてはは年率+50%(=×1.5)で性能が高くなると見積もる。もともとCPU+GPU環境がCPU単体で処理を行ったときの50倍近くハイパフォーマンスなので、CPU単体に対しては年率50×1.5^6という大胆な見積もりを示している。この計算によればCPU+GPUの異種混合コンピューティング環境はCPU単体に比べて6年後には570倍のパフォーマンスになる。つまり異種混合コンピューティング環境は素晴らしい……というわけだ。
実際そうなのだが、その様式には課題もある。
現在のPCI Expressバスの向こう側にあるGPUに対し、プログラムカーネルもデータ群もいちいちGPUへと転送し、そこでやっと処理を向こう側(GPU側)で実行させ、その結果をGPUからCPUシステム側へ取り戻してこないとならない。これはオーバーヘッドが大きいし、ソフトウェア設計に独特の発想概念が必要になる。こういう面倒くささが、NVIDIAのCUDAにはある……と指摘されることがあるのだ。
そこで毎回される決まり切った質問がNVIDIA(今回の場合はKirk氏)が投げられる。
それは「CPUとGPUを統合してはどうか」というもの。
今回もこの講演あとのプレスカンファレンスやグループインタビューでもこの質問があったのだが、この統合というのはたとえば「CPUとGPUとでメモリアドレス空間を共有してしまう統合」や「CPU側にGPUコアを取り入れてしまうことで命令レベルでのGPGPUへの対応を行う統合」などの意味合いが考えられる。
この質問に対してNVIDIAは決まり切った答えを用意している。
それは「NVIDIAがCPUメーカーではないこと」、さらに「CPUとGPUとが共存するところに美点がある」と答えている。
このCUDA的なGPGPUアーキテクチャには、「GPU部分が独立していることでGPUの差し替えや増設でパフォーマンスのスケーラビリティが保証されるという利点」と「CPUとGPUを統合してしまうことで、そのCPU/GPU統合プロセッサの世代間のソフトウェア互換性が取りにくくなるという問題を回避できる美点」などがよく取りざたされる。
AMDやIntelは「統合をよし」とする考えであり、結論として、どっちのソリューションが最後に残るかは分からないが、NVIDIAはGPUメーカーだけに「GPUがGPUとして存在できる未来」に期待を掛けている。
(トライゼット西川善司)