いわゆるリーマンショック以降、舶来品をはじめとする高級ウォッチ市場が冷え込んでいる。日本ではG-SHOCKを扱ってこなかった、いわゆるウン十万円以上の高級ウォッチを中心に販売してきたような高級時計専門店などでもG-SHOCKの取扱いを開始する店が出てくるなど市場に変化が起きているのだ。

増田裕一氏
全世界を席巻することになるG-SHOCKの初代モデルの商品企画を担当。「Mr.G」、「G-SHOCKの父」などと陰で賞賛されている。現在はカシオ計算機 取締役 時計事業部長として君臨

増田「北米はもとより、欧州、日本でもスイス製高級時計のマーケットは厳しい状況下にあります。一方で明確な特徴をもち、若い層をターゲットとして、コストパフォーマンスに優れた商品は、この不況下でも好調です。時計もしかり。低価格・高品質な商品が堅調なアパレルと同じで、マーケットの変化を強く感じますね。

こうした中、G-SHOCKは他社には真似のできない、弊社独自のジャンルという強みがあります。デジタルで樹脂ケース、若さ、活気、格好よさ、という、後ほど話しますがカシオのブランドビジョンが凝縮されたような商品なのです。日本だけでなく、北米でも高級店がG-SHOCKを扱い始めています」

――なるほど。現在の経済環境が逆に追い風になっていると。高級ウォッチと比較すれば、確かにG-SHOCKはロープライスですが、機能性、屈強さ、デザイン性、魅力の三拍子が揃っている。だからこそG-SHOCKが選ばれている!! ……と、これだけ誉めたのでG-SHOCKください。

増田「(笑)ダメですよ、店で買ってください。しかしおっしゃることに関しては、その通りです。アパレル界ではファストファッションの流行、俗に言う"ユニクロ現象"が起こっていますが、生活必需品である洋服などとリストウォッチには異なる点があります。携帯電話などでも時間を知ることができる現在、リストウォッチは嗜好品であると捉えるべきではないかと。つまり、安いだけでは購入理由にはならない。いらないものはいらないんです」

――深い読みですね。『G-SHOCKから読み解く世界経済』って経済書を出したらベストセラー狙えるかも!

増田「(一切無視して)低迷しているスイスの高級ウォッチの強みは『メカニカル』(機械式ムーブメント)。マーケティングコミュニケーションでは『伝統』、ブランドイメージとしては『巧み・逸品・超世代』を重視しています。

対するカシオの強みは、『エレクトロニクス』、『進化』、先に出てきたように『若さ・活気・格好よさ』。ここにカシオの時計事業のコア・コンピタンスをまとめた用紙があります。

G-SHOCK、EDIFICE、OCEANUS、PROTREKなど機能性を前面に押し出した男性向けモデル

3つありましてね。一つ目が我々のコア技術、すなわちエレクトロニクスや機能外装などを活かしたユニークなデザインを生む商品開発スタイル。二つ目はその集大成であるユニークな製品ブランド。G-SHOCKやBaby-G、PROTREK、OCEANUS、EDIFICEのほか、海外市場では既に展開中のニューブランドなど……」

――G-SHOCKやBaby-G、EDIFICEあたりは知ってますが、最後に挙げたニューブランドってなんすか?

増田「カシオの女性向けブランドであり、本日の核心部分ですから後ほど話しますよ。まぁ、待ってください。

Baby-G、G-msなどの女性向けモデルではカジュアルかつ可愛らしさも演出する

コア・コンピタンスの三つ目はユニークなグローバルマーケティングのノウハウです。G-SHOCKのかつての大ヒットは、他社にはないユニークさとプロモーションに負うところが大きく、技術力を打ち出すだけでなく、真っ白やスケルトンといった、従来なかったハイファッション性を積極的に伝えたことが大きな要因となっています。

G-SHOCKワールドツアー。ニューヨーク会場となったレストラン/イベントホールのシプリアーニにはメディアやセレブら1,400名が詰め掛けたという

こうしたプロモーションを現在は、ワールドワイドで展開しているのです。ロンドンを皮切りに世界各地でG-SHOCKのワールドツアーを開催したり、ロス、ニューヨーク、ロンドンのセレクトショップと提携したり、ミュージシャンのカニエ・ウェストら各地のカルチャーシーンをリードする人物をアンバサダーに立ててユーザーとのコミュニケーションを図っています」

――カニエ効果はニューヨークで絶大だったとか。

増田「そうですね。認知度が一気にあがりました。だからこそ、全世界のより多くの人にカシオブランドを伝えていきたい、という想いも大きくなりました。そこで次のステップとして、G-SHOCKで男性にアピールするだけではなく、女性にももっとカシオを知ってもらうため、女性向けモデルに本腰を入れて着手することにしたのです」…つづきを読む