――少し話の方向を変えて、状況を整理しつつお聞きしたいのですが、今回ユニークな試みとして『ディシプリン』のプレイ動画が発売前にニコニコ動画にアップされ、その後一度削除されました。これは「公認実況プレイ動画」という表記が、ニコニコ動画公認と受け取られる恐れがあったためです。この削除をきっかけに、ニコニコ動画の運営方針が「宣伝目的で企業が動画を投稿する事は、原則自由」と見直されたため、現在は再び『ディシプリン』の動画が視聴できるようになっています。この一連の事態について、飯田さんからひと言いただければと思うのですが?

「今回の場合は、面白い実況動画を作ろうというつもりで、決して宣伝優先ではなかったんだけど、そのときのルールとしては宣伝ということになってしまったんですよね。やっぱりニコニコ動画側のルールの整備もこれからだと思うんです。結果的に世間に影響力を持っていて、それをこれからどう運営していくかも試行錯誤の段階だと思うので、そのひとつの例として『ディシプリン』もあったんだと思うんです。でもさすがに発売前のゲームの実況動画を上げるのもどうかと思いましたよ、僕自身も」

――飯田さんがそれを言わないでくださいよ(笑)

「僕もゲームの実況動画は好きで、たまたま実況してる人たちが知り合いにいたんで、『どうしたらいいかな?』って相談して『じゃあ実況する?』みたいなそういうノリですよね。僕個人としては1本ゲームを作って、そこからどんどん派生していく別のゲームを体験した感じですよ。それ以外の人を振り回すことになってしまったのは、本当に申し訳ないと思うんだけど」

――その後も『ディシプリン』の動画はご覧になっていますか?

「僕はあんまり観ないようにしてますね。やっぱり疲れるんですよ。最初に動画をアップしたときに8万アクセスとかあったから、気にはなるじゃないですか。発売日のイベントもニコニコ生放送で流したんだけど、6千人ぐらい観に来てくれましたからね。それはもうちょっとしたケーブルテレビですよ。そう思うとやっぱり数字を稼ぎたくなるんだけど、本来僕が作るのはゲームであって、コメント数を増やすことに熱中しちゃうのは本末転倒だから」

主人公が収容所で任されるのが食事のスープ作り。「Windows Media Playerで曲を聞くとウニャーンってエフェクトが出るでしょ。あれを自分でかき回してみたいって考えてこうなりました」(飯田)

――あらためて『ディシプリン』を世に送り出してみて、手ごたえはいかがですか?

「まだわかんないですね。やることはやってみたけど。これはネタバレになるから詳しくは言えないんだけど、結果的にSFにしたんです。それがよかった。SFにしたことで、当初の体験シミュレーションから大きく離れて、ひとつの物語になったんですね。きわどい囚人たちが登場する理由も、物語として必然性があるんですよ。ニコニコ生放送で贖罪会見もやったんですけど、これって贖罪の話なんです。邪悪なものとか、罪とされるものとか、世の中の間違いとか悲劇とか、いろいろ悲しいことがあるけど、そういうものを引き受けた上である種の再生を願う話なんですよ。映画の『2001年宇宙の旅』のラストみたいなことなんですよね。まあ、とにかくそういうことをしてみたかったんですよ」

――どんな人に遊んでほしいですか?

「15歳以上なら誰でも。まあ、いま幸せな、リア充の人は遊ばないほうがいいかもね(笑)。『ちょっと生きづらいな』とか『なぜダメなんだろう?』とか疑問に思ってる人は、このゲームを遊ぶと……スッキリはしないかもしれないけど、いろんな考え方があるということがわかるかもしれない。ひとつ言えるのは、やっぱり世界に類を見ない奇妙なゲームになったと思うんですよ。価格そのものは800円、ランチ1回分の値段なので、遊ばないよりは、遊んだほうがいいと思うな(笑)」

――飯田さんとしては、約7年ぶりにゲームを作り終えてみて、いかがでしたか?

制作の日々を振り返る飯田氏。「コアメンバーは6人かな。アドリブも多いし、やっぱり物作りのライブ感みたいなのはすごくありましたね」

「やっぱりひさしぶりにゲーム作って楽しかったですね。こんなに楽しかったのかと。まあ、スタッフに恵まれたことも大きいですね」

――昔のほうが苦しい感じ?

「うーん、やってることは変わらないかもしれないけど、苦しいことも楽しくなったかな。なにが楽しいかって、バカなことを思いついた翌日にそれが本当になるっていうことですよね。今回みたいに6人とかで作ってると、ひとりひとりの作業がダイレクトに出てくるから『ここまでできるの?』みたいな驚きがすごくある。例えばね、独房でも最初は本当に15分ぐらいなにもできないようにしたかったんです(笑)」

――それじゃ本当に拷問です(笑)

「でもスタッフに『あんまりですよ』と諌められ、『じゃあひとりで部屋に閉じ込められたらなにする?』『とりあえず棒をいじるんじゃないですかね』『じゃあマッサージにしよう』って(笑)。このゲームの制作ってそういう『現実だったらどうする?』みたいなことでどんどん決まっていった気がしますね。だからネットの状況もふくめて、大事にしたいのは本当にそのライブ感ですよね」

――テーマの上でも、制作手法の面でも、今後もっとそうしたライブ的なゲーム作りをしてみたい気持ちはありますか?

「うん、それはすごくありますね。ブログぐらいのスピードでゲームを作りたいと思います」

――ありがとうございました


ゲームタイトル ディシプリン*帝国の誕生
対応機種 Wiiウェア
ジャンル 贖罪バンドデシネ
配信開始日 2009年8月25日 (配信中)
価格 800Wiiポイント
CEROレーティング C (15才以上対象)
(C)2009 Marvelous Entertainment Inc.