2009年の夏の終わり、Wiiでダウンロード購入する「Wiiウェア」向けに、マーベラスエンターテイメントから、ひとつのゲームの配信が開始された。タイトルは『ディシプリン*帝国の誕生』(※以下『ディシプリン』)。価格は800Wiiポイント(=800円)となっている。

ゲームデザイナー・飯田和敏氏。過去にも『アクアノートの休日』(1995年・アートディンク)、『巨人のドシン』(2002年・任天堂)といった個性的なゲームを発表。近年はゲームデザイナーの米光一成氏、麻野一哉氏とのユニット活動を行うほか、人気コミック『げんしけん』のノベライズも手がける

規律、調教を意味し、キング・クリムゾンの名盤をタイトルに冠した『ディシプリン』のジャンルは「贖罪バンドデシネ」。収容所を舞台に、個性的な囚人たちの心を解放するため、主人公は手にした珍妙な棒「youコン」をこっそり使い出す……と、かいつまんで説明しても、どんな内容かさっぱりよくわからないこのゲーム。発売前にもかかわらず、ニコニコ動画に実況動画をアップし、一気に8万アクセスを集めたものの削除→いろいろあって再アップ、という波乱の展開があったことでも、一部のネットユーザーにとっては記憶に新しいところだ。個性的なゲームが少なくなったと叫ばれる昨今、こっそり配信されるにはあまりにももったいないこのゲーム。その制作の内幕から、いま小規模でゲームを制作することの意義まで、『ディシプリン』のディレクターを務めた異能のゲームデザイナー、飯田和敏氏に聞いてみた!

ゲームデザイナー・飯田和敏が語る『ディシプリン*帝国の誕生』

――まず飯田さんにお聞きしたいのですが、こういうアンダーグラウンドなテイストのゲームをWiiで出すことは、難しくはなかったですか?

「それはよく聞かれるんですけど、任天堂から言われるのは『ストラップはつけてね』みたいなガイドラインであって、『この表現はNGです』とかは言われなかったですよ。だから今回一番検閲的なことを意識したのは僕自身ですよね。いろんな人が『Wiiでよくぞここまで』みたいなことは言うし、僕もそういう気持ちはあったけど、任天堂も変なゲームはいっぱい出してるしね。そんなにみんなが思うほど優等生然とはしてないですよ。ただあれだけ大きいといろいろやりにくい面もあるだろうから、僕らがこういうイレギュラーなゲームを作ったほうが面白いとは思いますけどね」

――では今回Wiiウェアをプラットフォームに選んだ理由は?

「やっぱり声をかけてくれたマーベラスさんがWiiでの開発に慣れてたってことが大きいですよね。あとはWiiのショッピングチャンネルとか、スーパーマリオとかのアイコンの横に『ディシプリン』のアイコンがあるだけでも十分変だしね(笑)。そういう場違い感は面白いですよね」

――作品の舞台は収容所という特殊な場所ですが、それをゲームにしようと考えたきっかけはどのあたりから?

「出発点は花輪和一さんの『刑務所の中』というマンガを読んで『へえー』と思ったのがきっかけです。網走の博物館(=博物館 網走監獄)にも行きましたよ。あとはここ最近の話題だと裁判員制度とか『死刑は是か非か』みたいな話もあるんだけど、僕らの実感としていまいちよくわかんない。もちろん調べれば資料はいっぱいあるんですけど、それをゲームみたいにアクセスしやすいジャンルで体験するのも悪いことではないだろう、というのはありましたね」

主人公は収容所の模擬試験に参加することになった「you」。手紙に同梱された不思議なコントローラーを使うのを「見られてはいけない」とのことだが……

主人公が収容所で出会うのは、どこからどう見ても怪しすぎる収容者たち。主人公は彼らとうまくやっていけるのか?

――ひと言で表現するのが難しいゲームだと思いますが、飯田さんは『ディシプリン』をどんなゲームだと考えていますか?

「誰にも見られてはいけないゲームです。遊んでるところを見られるのもまずいですね」

――ひとりでこっそり遊ばないとまずいですか?

「まあ、結構みんなでワイワイやってますけどね。『後ろ後ろ!』って騒いだりとか、意外とパーティーゲームになり得るなという。ただまあ、基本はひとりでやったほうがいいと思います。最初スタッフに説明するときに言ってたのはね、某潜入アクションゲームなんです」

――……それはいったいどの辺が?

「とにかくこのゲームは監守に見つかってはいけないんですよ。だからこれもステルスアクション(笑)。ただしあっちのゲームは見つかっても逃げられるけど、『ディシプリン』は逃げられない」


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