健全な土壌が造るワイン
先述の通り、ビオディナミは様々なプレパラートの使用や除草剤、化学肥料の不使用で、土壌は本来の健全状態を取り戻す。ブドウの根は地下深くもぐるようになるので、その土壌特有のエキスを吸い上げることができる。なおかつ、健全な土壌には微生物が生息し、自然酵母が漂っている。培養酵母を使わず、この自然酵母だけでブドウを発酵させるのだ。
さらに、醸造段階において添加される酸化防止剤(亜硫酸)は、EUで定められている規定をはるかに下回っている。少ないところはEU規定の1/10程度。今回詳しい説明は省くが、実はこの亜硫酸添加がビオディナミのワインを造るにあたり、重要なキーになってくるのだ。
おそらくビオディナミのワインは、品種固有の風味云々ではなく、その土壌の特性(自然酵母も含む)を最大限に活かして造られたものなのではないかと私は思う。これらの条件を満たして造られたワインがビオディナミと呼ばれるわけだが、さて、われわれ消費者にとって大事なのは、価格ももちろんそうなのだが、なんといっても「味」だろう。
価格については、一般的には通常のワインと同じく、どれだけ手間をかけて造っているか(=優れたワイン造りをすることで名の馳せた生産者)や、ヴィンテージによって違ってくる。ビオだから特に高い、ということはない。
味で選ばれるビオに
そして肝心の「味」。ビオだろうがそうでなかろうが、ワインは"美味しくてナンボ"である。ビオも通常のワインも価格が変わらないのであれば、おいしいほうを選ぶ。わざわざマズいワインを選ぶ人はいないだろう。
ビオディナミのワインには、俗に「還元臭」といわれる独特の香りがある。この香りがあるために、「ビオは嫌い」という人もいる。冒頭に書いた通り、転換中の生産者も含めフランス国内でのビオ生産者は急増しているため、ビオ関連団体の活動も活発化している。そして、その分野における研究も進んでいるからだろう、還元臭だけでギブアップするようなひと昔前のビオワインは随分と少なくなった。ジュリアン氏もボーヌのビオディナミの勉強会(GJPV)に定期的に参加し、意見交換や情報収集に努めていると聞く。
1980年代からビオの試行錯誤を繰り返し、今やベテランの域に達している造り手が指導や伝道活動をする。そして、ここ数年の若い造り手たちはベテランを模範にする。そんなよい循環ができ、環境が整ってきた。こうした環境をいかし、今シャブリは表立ってはビオとはわからない造り手も実は転換中であるところが急増している(全部の畑を一気にビオにすることが難しいため)。
今後日本においても、ビオの認定シールが貼られたシャブリを見つけることができるようになるだろう。そしてそれらが、ビオだからではなく"おいしいから"と選んでもらえるようになったら。それは、生産者にとってこのうえない喜びになるはずである。