草ボーボーの畑、牛糞の山に衝撃

ドメーヌ・ジャン・マルク・ブロカールの場合

ドメーヌ・ジャン・マルク・ブロカールのブドウ畑

こちらは、ビオロジックとビオディナミの両方を1997年から実践している。プティ・シャブリからグラン・クリュまで180ha所有する畑のうち90haがビオの畑、さらにそのうちの30haがアグリキュルチュール・ビオロジックとデメテルの認証を受けている。

ジュリアン・ブロカール氏

ジャン・マルク・ブロカール氏の次男ジュリアン氏が畑を案内してくれた。ヨーロッパのブドウ畑というと、土の上にブドウの樹が何列もお行儀よく並んでいて、その列と列の間には当然雑草など生えていないのが手入れのされたよい畑、とお思いの方も多いだろう。

ところが、だ。ビオディナミという農法は、ブドウの列の間にボウボウと雑草を生やす。雑草が十分育ったところで鋤入れを施して、土をフカフカに保つのだ。防虫剤も撒かないからミミズだっている。ミミズが通ることで土中に穴が開き、これも土がフカフカになる要素になるわけだ。こうすることによって空気を土中に送り込むことができ、健全な土壌になる。だから踏みしめて土をガチガチにしてしまうトラクターは、決して使わないという。

私が訪問したときには鋤き入れをしたらしくさほど雑草はなかったが、普段はタンポポやノコギリ草なども生やしている。なぜなら、これらを乾燥させて堆肥として使っているからだ。そしてビオディナミにおいて、もっとも代表的な堆肥は牛糞である。実際には、牛糞を雌牛の角に詰めて、冬の間土中に埋めておいたものを畑に撒く。ジュリアン氏の手招く方向に足を向けると、畑の傍らに麦わらで覆われた牛糞の山を発見! ジュリアン氏に習い恐る恐る私もそれを手にとって匂いを嗅いでみたが、不思議なことに全く臭くない。「普通の土」といわれれば信用してしまいそうだった。

麦わらに覆われた牛糞の山から、ジュリアン氏が実物を出して見せてくれた

この牛糞もその土地に近い産地の牛のものが望ましいとされているが、ブロカールが使っている牛糞も隣村でオーガニックで育てている牛のものだそうだ。ちなみにこれらビオディナミで使う有機肥料のことは「プレパラート」と呼ぶ。フランスでも、すでに名を馳せているビオディナミ生産者でもプレパラート専門店(こういう店が存在することも驚きだが)で購入するところが多いのに、ブロカールではオリジナルで作っている。どれほどの熱意をもってビオに取り組んでいるかを推し量る材料としては十分だろう。もっとも、本腰を入れて取り組んでいな事業に、膨大な費用と時間(ビオディナミの場合、畑の準備段階から認証機関への申請、認証までに最低7年はかかるといわれている)をさくことはできないだろう。こちらではビオディナミの「シャブリ・ボワソンヌーズ」の2003年~2006年、「ヴォーロラン2007」(プルミエ・クリュ)、「レ・プリューズ2007」(グラン・クリュ)を試飲した。

まずは固定概念を捨てよ

ドメーヌ・ジャン・マルク・ブロカールのワイン

これはどこのどんな品種のビオディナミにも感じることだが、自分の中のセオリーや固定概念にあてはめようと思いながら飲むと肩透かしを食らう。つまり、それまで自分が感じてきた品種固有の香り、例えばソーヴィニヨン・ブランは青い草や茎のような香り、カベルネ・ソーヴィニヨンはカシスやスミレ、ペッパーの香り……といった観念が頭の中にあるのだが、それらがビオで造ったワインには当てはまらなくなってくるのだ。

シャブリは当然シャルドネで造られているので、教科書通りに表現しようとすると、「パイナップルや熟したリンゴ、時にはハチミツなど」というべきところなのだが、残念ながらそのような香りは出てこない。だからといって、シャルドネが急にイチゴの香りになるわけはなく、なんと言えばいいのだろうか、とにかく品種固有の香りが感じとり辛くなっている。目隠しでこれを飲んだら、もしかしたら「ソーヴィニヨン・ブラン」と答えてしまうかもしれないし、「セミヨン」と答えてしまうかもしれない。ただ、ビオディナミのワインとだけは答えることができる。