雷句誠氏とファンタジーバトル
――ちなみに、先生の中で、また新たな"ファンタジーバトル"の構想というものはありますか?
「まったくないんですよ。あれば描いていたと思うのですが、結局『金色のガッシュ!!』を描き切った時点で、自分が描きたい"ファンタジーバトル"は描き切ったという感じなんです。なので、新たに描いたところで、結局同じことの描き直しになるんじゃないかなって思うんですよ」
――キャラクターや舞台背景が変わる程度で、骨になる部分は変わらないという感じですね
「そうですね。それに今のマンガ雑誌は、ものすごい数のファンタジーバトルが掲載されてるので、自分はもうちょっと別のもの、新しいものを描きたいとずっと思っていたんですよ。『どうぶつの国』にしても、最初は"どうぶつの国"が舞台ではなく、拾った赤ちゃんをタヌキがリアルな"人間界"で育てるという話だったんですよ、実は」
――赤ちゃんが人間で、それを拾うのが動物という設定は同じですか?
「川を流れて、どうぶつの国でタヌキが拾うというところは同じなのですが、『この子は人間の赤ちゃんだから、人間の世界で育てないと幸せになれない』ということで、人間の世界に来るんですよ。それで、タヌキが区役所に届出をしたり、小さいアパートを借りたりして、コツコツと育てていくというお話で、タヌキの視点から、人間の世界ってよくできているなとか、子育ての援助ってここまであるんだとか、そういうことをちょっとずつ学びながら、育てていくという感じですね」
――子育てのハウツー本みたいですね
「そうです、そうです(笑)。だから赤ん坊が育って、幼稚園にいって、授業参観のときに周りの子どもから、『お前の母ちゃんはなんでタヌキなんだ』みたいなことを言われて、ちょっとグレはじめるとか、そんなことをいろいろとリアルに考えていました(笑)」
――かなりシュールな感じですね
「そういった愉快なことも考えたりしていまして、本当にまったくの別物だったんですよ。でも、編集さんといろいろなお話しをしている中で、野生の世界も面白いなぁと思いまして。自然の厳しい世界で育てたほうが、"命"というものがリアルに描けるのではないか、サバイバルも含めて、命の尊さが描けるのではないかという感じでシフトしていったんです。多少ファンタジー的な要素も入っていますが、少しでも現実に近づいたものを描きたかったんですよ」
――「どうぶつの国」の場合、現時点でどのくらい先までを見据えていますか?
「今のところ、だいたいのゴールは考えているのですが、その道筋についてはほぼ考えていません」
――ゴールには向かっているけれど、どのルートを通るかは決まっていないということですね
「週刊連載のときもそうだったのですが、ある程度のゴールは作ってあるんですよ。でも長い連載スパンを考えると、最初にカッチリと作ってしまうと、面白さも何もかもが広がらないんですね。がんじがらめに縛られてしまって、せっかく出てきたアイデアも使えないという感じになってしまうんですよ。なので、ある程度は作っておくのですが、あとは編集さんとの打ち合わせや、その場その場の発想を大事にしています。新しい資料を見ると、新しいお話もたくさん浮かんできますので、そのあたりはレールを敷かず、臨機応変に対応していきます。やはりアイデアは現在進行形で、ドンドンと浮かんでくるものなので、それを使わない手はないですよね」
――先まで見越しすぎると、描く段階になってそのアイデア自体がダメになる場合もありますよね
「そうなんですよ。出した時点でカンペキなアイデアなんてないんです。アイデアはナマものであり、現在進行形で作り上げていくものなんですよ。そうでないと、リアルに作品を面白くしていくことができないんじゃないかなと思います」
――今回『どうぶつの国』は動物がテーマになっていますが、動物はお好きですか?
「とても見ていて面白いと思います。ただ、昔から好きで好きで仕方がなかったというわけではなく、今回、野生の世界を描くことになり、いろいろと調べ始めてから、ドンドンと深みにはまっていったという感じですね。やはり生態といいますか、仕草や行動が人間の考えからは外れているので、調べれば調べるほど面白くなってくるんですよ。あとはやはりかわいいですよね(笑)。怖い猛獣でも、日常生活をずっと見ていると、かわいい仕草がたくさんありますし、どんな動物でも赤ちゃんはやっぱりかわいいんですよ。そういったところも含めて、マンガに活かしていこうと思いました」
――現在、リクというイヌを飼っていらっしゃいますね
「リクはもともと妻が飼っていたイヌで、一緒に嫁入りしてきた感じです。男の子ですけどね(笑)。うちに来たときは、やはりすごくうれしかったです。いつかイヌを飼いたいとは思っていたのですが、ずっと踏ん切りがつかなかったんですよ。やはり"命"ですから、マンガを描きながら、責任を持って育てる自信がなかったんです。実際に飼ってみると、やはり大変なんですよ。毎日散歩に連れていかないといけないし、取材で旅行にいくときはちゃんと預けていかないといけない。今は妻がいるから育てられますが、一人だったらちょっとムリだったと思います。でも今はいてくれてとても幸せです。とてもかわいいので(笑)」