ほかのゾーンは、ベトナム戦争の爆撃で遺跡が崩れ、大半が土や草木に無残に埋もれている。大砲が残されている場所さえある。滅亡した王国の遺跡は、「つわものどもが夢のあと」というには、あまりにも生々しい。中世と近現代の歴史がこんな形でつながっているのもベトナムの現実なのだ。
ベトナム戦争の爆撃痕が激しいゾーン。古代遺跡さえ、攻撃される戦争の無残さが浮かび上がる光景 |
かろうじて、形を残してはいるがレンガが崩れ落ちそうな建物。補強がしてある。「Keep out 」の看板が置かれてある |
しかし、ベトナム戦争以降、国や海外の文化保護団体によって、調査と補修が続けられている。日本も保護助成や技術協力をしているそうだ。
ミーソン遺跡が伝えるものは多いが、最も圧倒されるのは、そこに、時の流れをシンプルに感じさせること。同様の年月を経た文化遺産は他国にも多々あるが、まず、歴史的な重さを感じる。ミーソン遺跡は、人も事象もすべてが雄大な時の流れの中にたゆたっているようなイメージを起こさせる。
山の中に静かにたたずむ遺跡。木々の緑が鮮やかで、ほんの少しの風の音や川のせせらぎが耳に心地よく響く。歩いて回るからこそ、双方の対比と調和を感じることができるのだ。
行きは自然を楽しみながらハイキング気分だった木立の道。だが、神聖な建物にふれた帰りは、時空を行き来しているような思いへと変わった。
茶木 環(ちゃき たまき) プロフィール
東京都出身。元テレビ信州アナウンサー。ニュースキャスター時代から、現場に足を運び、自らの目で見たものを伝え続ける。現在は日本全国の鉄道や観光地の現状などを取材。作家インタビューでは、各々のブレない鋭い視点と、書くことを続けるパワーの源に注目。最近の取材では、西村京太郎氏のエネルギーと旺盛な好奇心に感銘を受ける。著書『自分のやりたい仕事が見つかる本』『OLやめて「自分の店」を持ちました!』がる。