緑の中を30分ほど歩くと、ようやく最初の遺跡群が姿を現した。ミーソン遺跡は、ベトナム中部~南部の海岸平野を中心に栄えたチャンパ王国の聖地で、20世紀初頭にフランス人によって発見されるまで、"忘れ去られていた"遺跡だ。遠くからは、大きな岩のようにも見える。一歩足を進め、近付いていくと、徐々に建物が見え始めた。

緑の中に見えてくる遺跡群。遠目には、黒っぽい岩のように見えるが、近付くと、古代王国の跡。まさにインディジョーンズの世界

中世の神殿がそこにあった。荘厳な光景だ。創造していたよりもずっと広い。のどかな緑に囲まれ、ところどころが朽ち果て、苔生していても、その重厚さは変わらない。むしろ、チャンパ王国の繁栄と滅亡を強く感じさせる。

歩いて、神殿であることを実感。歴史的な建造物とはいえ過剰に保護せず、自由に歩き、中に入れるのも魅力だ

(上)すり合わせたレンガを少しずつずらして積んで屋根を支えるのが大きな特徴。漆喰などの接着剤は一切使われず、当時の建築技術の高さがうかがえる(右)間近で見上げると、さらに迫力。古い時代のものほど、高さが低く壁はしっかりとした重厚な造りだという。初期の建物は木造を模している

ここにあるのは、8世紀から王国が衰退し始める13世紀まで建てられたもの。残念ながらベトナム戦争によってその多くが破壊されているが、約70の遺構が4つのゾーンに点在している。一番、保存状態がよいのが、この一番手前のグループBCDゾーだ。

この辺りがミーソン遺跡の最も核心となる。彫刻などの装飾も多い

乾いた風合いのレンガを積み重ねた建物は独特の味わいと迫力がある。建物の合間を行くと、古代神殿の回廊を歩いているような気分になる。作業には付近の山岳民族があたったというが、どうやってこの山中に資材を運び込んだのだろうとつい思いにふけってしまう。

装飾も美しい。石像のほかに、建物壁面にはチャンパの女神像が幾体も並び、神秘的な雰囲気を醸しだしている。

建物の壁面には精緻な彫刻が施されている。美しいチャンパの女神像が遺跡を今も見守っている

サンスクリットの碑文。歴史を解明する上での貴重な資料となっている

小さな祠堂に入ってみた。中は少しだけ涼しい。薄暗く、照り返しの強い外とのコントラストが小気味よい。しばらくすると、周りの音がスーッと引いていき、静寂のみが広がる。癒し効果があるようで、気持ちが落ち着く。時の流れを感じさせる外部とは対照的に、この中は時が止まったような気になる。建物も素晴らしいが、この不思議な空間が最も印象的だった。

祠堂の中に入ることもできる。中は静寂が広がる不思議な空間。しばらくいると、時が止まったような気になる