――日本ではレーシックの手術というと、美容整形外科で多く行われているという印象がありますが、これは美容整形の一環というとらえ方なのでしょうか?

小谷野氏「レーシックは視力矯正のための治療であり、美容整形のように見た目を美しくする、という治療とは一線を画したものなのですが、日本では美容整形クリニックの大手がレーシックを手がけるようになって急速に広まったのは事実です。レーシックは現在保険診療ではなく自由診療科目ですから、眼科の専門医を呼んでくれば、レーシックを行うことは可能なわけですね」

「レーシックを受けようとする際に重要なのは、その患者さん一人ひとりの眼の状態を正確に診断し、分析して、どのような術式が最もよいかを見極める『術前検査』です。レーシック治療は、手術自体の所要時間は両目で10分程度であり、けっして難しいものではありません。一概に"角膜"といっても、薄い方、正常な形をしていない方、病気を持っている方などいろいろな個人差があります。その詳細なデータを正確にとり、その患者さん用にどのようにレーザーを照射するのがいいかを判断することが適切な手術に結びつきます。そこが決まればほとんど終わったようなもので、次に大事なのは術後のケアですね。美容整形クリニックであるか眼科クリニックであるか、ということよりも、術前検査がどの程度しっかり行われるかを見たほうがいいでしょう」

今後は老眼治療も含めた、広い意味での「視力矯正」に

――今後、レーシック治療はどのような方向へ向かうのでしょうか。

小谷野氏「レーシック治療全体としては、さらに技術が進んで、患者さんがどのように見えているのかの研究が進んで、よりよく見える技術が進んでいくでしょう。合併症の一つとして、どうしても夜間見えづらいということがありますが、それも改善されていくと思います。もう一つ、大きな問題としては、老眼の治療が増えてきているということがあります。これは近眼以上にこれから大きな悩みとなってくる問題だと思います。老眼というのは45歳ぐらいをめどに、誰もがなります。何か書類を見なければならない、薬の効能書きを読まなければならないなど、日常生活に往々にして起きることが、いちいち老眼鏡をかけなければ見えない、というのは大変つらいことです。これを治療するための研究がどんどん進んでいます。レーシックというと、どうしても近視矯正ばかりが注目されてきましたが、これからは老眼治療も含めた、広い意味での『視力矯正』にシフトしていくものと思います。高齢化社会として、これは無視できない、我々一人ひとりのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に関わる問題なのです」

「日本のレーシックに関しては、残念ながら保険診療になる動きは今のところありませんが、そうなるべきだと私は思っています。近くや遠くがよく見えないということは社会生活にいろいろな支障をきたすものであり、メガネやコンタクトレンズという矯正器具がなかったら車の運転さえできません。また、消防士や警察官などの職業の人にとっても、画期的な治療法としてますます必要になってくると思われます。レーシックは現在でこそ日本の視力矯正を必要とする方の1.5%しか受けていないと試算しており、これからますます広まっていくのは必至だと確信しています」

小谷野宣之(こやの のりゆき)

「神戸クリニック」の運営を手掛けるインターナショナル・メディカル・ビジネス代表取締役社長兼CEO。2003年にレーシック専門の眼科クリニック「神戸クリニック」を神戸市・三宮に設立。現在、北海道・札幌、東京・広尾、大阪・梅田、神戸・三宮、北九州・小倉で展開。同クリニックで手がけるレーシックの症例は、2008年末で約7万症例。