携帯電話端末市場の世界シェア2位となっているSamsung電子は、2008年の1年間で1億9,670万台(米IDC調べ)の携帯電話を販売した。日本国内でも同社はソフトバンクモバイルに端末を提供しているが、ワンセグやおサイフケータイといった日本独自のサービスに対応するため、日本専用の機種を開発している。

しかし同社ならばわざわざ日本市場に参入しなくても、グローバル向けの機種だけで十分収益を挙げることができるはずだ。むしろ、日本市場に対応するためのコストが損失にすらなり得るのではないか。Samsung電子で日本を含むアジア市場の携帯電話事業を統括する趙洪植(Cho Hong-sik)専務に、同社の日本市場向け携帯電話戦略を聞いた。

――今年のMobile World Congressでは、「OMNIA HD」「UltraTOUCH」「Beat DJ」の3機種を戦略製品として発表されましたが、これらの機種が日本市場で発売される可能性はあるのでしょうか

OMNIA HD

UltraTOUCH

Beat DJ

残念ながらありません。日本市場では独自の機能や通信事業者のサービスに対応することが求められますが、今回の製品はそれらの機能を備えてはいません。

――ワンセグやおサイフケータイなどの機能を搭載できるまでは、日本市場には投入できないということですね

搭載すること自体は決して難しいことではありません。既に弊社は日本市場向けの携帯電話を2年以上にわたって開発しており、かなりのノウハウを蓄積してきました。ですので、技術的に可能か不可能かという問題ではなく、これらの製品が日本市場で売れるか売れないかということがポイントになります。売れるのであれば、日本市場向けの機能を搭載します。さらに正確に言えば、日本の携帯電話市場では、すべての製品はキャリア(通信事業者)さんを通じてユーザーの皆様に販売されますので、売れるか売れないかは、私たちではなくキャリアさんが判断される事項ということになります。

――そういった意味では、Samsungにとって日本市場はやりにくい市場ということはありませんか

いえ、携帯電話に限らず、それぞれの市場にそれぞれのビジネスのやり方があるのは当然のことです。アメリカは日本のやり方に近く、キャリアさんを通じたビジネスが主流です。韓国もその割合は大きい。ヨーロッパはメーカーブランドで展開する、いわばオープン市場でのビジネスが盛んな地域と言われていますが、キャリアさんによる展開もかなりの量があります。最近「メーカーとキャリアの力関係」といった話もありますが、市場の仕組みはそんなに単純なものではありません。我々はそれぞれの市場のやり方に応じて、良い製品をご提供すべく努力していきます。

――2008年は携帯電話の販売台数でNokiaに次ぐ世界第2位となりましたが、それに占める日本市場の割合はかなり小さいものだと思います。にもかかわらず、大きな開発コストをかけて日本市場専用の機種を開発する理由はどこにあるのでしょうか

弊社は昨年1年間で2億台近い携帯電話を販売しました。その数字の中では、確かに日本は統計に表れないくらい小さな台数です。しかし日本も、年間数千万台の携帯電話が販売される市場ではありませんか。その市場を捨ててしまっても良いのでしょうか。なぜ日本向けの製品を作るのかと問われれば、日本もひとつの市場だからです。それ以外に何か理由が必要でしょうか。

――しかし、ビジネスとして利益を出すということを考えると、日本はかなり難しい市場なのではないでしょうか

日本向けの携帯端末事業は弊社にとってまだ新しいビジネスです。参入してすぐに大きな利益が出る新規事業がそんなにあるとは思えません。ちょっとやってみて利益が出なかったから撤退する、そんなつもりで日本市場に参入したのではありませんし、我々には既に販売した製品をサポートするという責任もあります。何より、これまでの製品をご購入いただいた日本の皆様から寄せられた声にお応えするためにも、今後より良い製品を日本市場向けにご提供していきたいと考えています。

当社は、当時グローバル機種を日本でも展開しようと考えられていたボーダフォン日本法人からお声がけいただき、その流れで現在はソフトバンクモバイルさんに製品をご提供しています。最初のころは、いただいた仕様を満たすのに時間もかかり、日本のキャリアさんが求める水準は世界一高い、日本のユーザーの要求は本当に厳しいということを実感しました。