Lunascape5.0の概要
Lunascapeは、Lunascape社から無償で提供されるWebブラウザである。これまで、ベータ版などを公開してきたが、いよいよ正式バージョンであるLunascape5.0を公開した。Lunascape5.0は、2008年にアルファ版が公開されて以来、数万人におよぶ協力者により、テストが繰り返されてきた。まずは注目の新機能であるが、
- 3つのレンダリングエンジン(Gecko1.9.1、Trident、WebKit)を搭載
- レンダリングエンジンの切り替え
- 世界最速、JavaScriptエンジンTraceMonkeyを搭載
である。特に注目を集めているのが、JavaScriptエンジンにTraceMonkeyを採用したことであろう。TraceMonkeyは、Firefox 3.1で搭載される予定のJavaScriptエンジンである(Firefox 3には、SpiderMonkeyが搭載される)。TraceMonkeyでは、従来のJavaScriptエンジンにJIT(ジャストインタイム)コンパイラを追加し、Webページで動作しているJavaScriptで繰り返し実行されている部分を認識し、その部分のJavaScriptコードをネィティブコードに変換する。この繰り返し処理は、当然のごとくよく使われている。そこを高速化することで、全体として大きな高速化が達成されるのである。Lunascapeが発表した主要なWebブラウザとの比較は図1のとおりである。
この比較には、SunSpiderが使われている。WebKit開発チームが作成したJavaScript用のベンチマークで、3Dや暗号処理、文字列処理や各種演算処理でWebブラウザの性能を比較するものである。注目したいのは、2008年に発表されたFirefox 3やGoogle Chrome以上の数値を出していることだ。現時点では、世界最速Webブラウザといってもよいであろう。もちろん、JavaScriptのベンチマークだけが、Webブラウザの速さを測るものではない(Webブラウザの性能として他の要素の影響も無視はできない)。しかし、1つの客観的な結果としては、評価しえるであろう。
新バージョンでは、これらの新機能以外にも、多数の改良が行われた。そのいくつか紹介すると次のようになる。
- 起動速度を高速化(Lunascape 4正式版比較で約3.1倍、Lunascape社の調査による)
- 他のブラウザのお気に入り・設定の引き継ぎをよりスムーズに(Lunascape3 Liteを追加)
- 多段タブの位置を固定する機能
- 広画面表示機能の追加
- ブックマークレットを刷新
- 新しいモード(クール)、スキン(cool)を追加
これら以外にも、数多くの機能が搭載されている。Lunascapeは、日本人の開発によるWebブラウザで、その拡張性の高さなどに関して、これまで高い評価を得ていた。企業向けには、独自のカスタマイズなどをしたオリジナルのLunascapeを提供するといったことも行われている。
また、既存のWebブラウザから移行するための配慮も随所になされている。 Internet Explorerのツールバーやお気に入りを継承、Firefox 3のお気に入りを継承するといったことはもちろん、キーボードショートカットもFirefox 3風に変更するなど、移行のさまたげとなる要素を豊富なカスタマイズ機能で減らしている。
さらに、今回の新機能のひとつが3つのレンダリングエンジンの搭載とその切り替えである。レンダリングエンジンとは、HTMLなどで記述されたWebページの記述を実際に表示するための機能である。代表的なWebブラウザでは、表1のような関係になっている。
表1 代表的なWebブラウザとそのレンダリングエンジン
Webブラウザ | レンダリングエンジン |
---|---|
Internet Explorer | Trident |
Firefox | Gecko |
Google Chrome | WebKit |
Safari | WebKit |
Opera | data |
Knoqueror | Presto |
Lunascape5.0では、このうちのTrident、Gecko、WebKitの3つレンダリングエンジンを搭載し、ほぼ自動的に切り替えて使うことも、好きなタイミングで切り替えることができる。これまでInternet Explorer(以下、IEと略記)を使用していたユーザーの多くは、Webブラウザの移行に対して、「Webページが正しく表示されない」といった理由から躊躇していたことが多い。その理由は、IEの利用者が多いことにより、Webページの記述がIE用に最適化されていることである。また、複数のWebブラウザを使い分けるのもめんどうであった。そんなユーザーにも福音となるのが、Lunascape5.0である。レンダリングエンジンを切り替えて使うことで、どんなWebページも表示できるようになる。