本展では昨年、第10回亀倉雄策賞を受賞した際に行なった「佐藤卓展」で展示されていた作品の延長線上にあるものを中心に展示されている。

ひとつは3階に設置された紙の積層による「ひらがな」の立体作品。紙を積層し、ひらがなを一文字ずつ立体に起こしたもので、本来、二次元の表現である文字に、それぞれの文字が持つイメージに合わせたカーブを持った3次元の立体に仕上げられている。それぞれの文字が異なるカーブを持っており、ひらがなひとつひとつが持つ個性に気づかされる。最後の一点は立体の文字を抜いた"抜き型"がおさめられている。

紙の積層を使った本作品は、2004年に発表した「紙の化石」を進化させたもの。今回、題材にひらがなを使った事について佐藤氏は、「ひらがなは漢字などと違って、日本固有のもので、日本の文化です。そういう事から、僕はひらがなに興味があるし、とても大事に思っているんです」と語っている。ひらがなを題材にした本作品は、このシリーズのひとつの完成形とも言えるだろう。

もうひとつは地下にあるギャラリーの暗い空間に展示された「立体スクリーン投影」作品。紙の積層でできた白いキャラクターに映像を投影し、カラーのかわいらしいキャラクターに仕上げたものだ。真上のプロジェクターから投影され、微妙に設置された鏡によって立体の背面も含め見事に投影されている。さらに投影される映像はアニメーションになっており、子供のナレーションとともに、くちびる部分(の映像)が動く仕組みになっている。佐藤さんによれば、ナレーションには実際に子役のオーディションを行い、しゃべってもらうとともに、口の動きもキャプチャしたということだ。昨年の亀倉雄策賞受賞記念 佐藤卓展ではロッテのクールミントガムを使った同様の作品を発表したが、前回は直線的な作品だったものに対して、今回は複雑な曲線を持ったキャラクターになっており、進化している。このシステムは富士ゼロックスが開発中のもので、今後、新たな表現媒体として活用される場面が見られるかもしれない。

「立体スクリーン投影」の作品。佐藤卓さんとかわいらしいキャラクターの組み合わせは意外な感じだが、実は佐藤さんはアメリカのアドバタイジングで使われるキャラクターが大好きで、コレクターでもある

左が投影した状態。右が投影が行なわれていない状態。よく見ると地層か等高線のような線が入っている。この線一つ一つが紙一枚一枚という事だ

ひとつの光源から投影された映像は、鏡によって巧みにキャラクターのすべての面に映像を投影している