ポストによってフラッグの振り方は異なる

テレビで漫然と見ていたりすると、コース委員が各種フラッグをただなんとなく振っているだけに見えるかも知れないが、実はコツがいる。カッコよく見せるためには、それなりに修練を積まないとならない。しかも、ポストごとにドライバーの視線の角度が異なるので、振り方が異なるのだ。要するに、走ってくるドライバーに合わせて、一番面積が広くなるように振らなくてはならないのである。当然、風も吹いたりするので、それも計算する必要があり、少々コツがいるのがわかった。また、10番ポストはアクシデントも重なることが多いので、4本もフラッグを出さないとならない時があるという。今回のようにふたりしかいないと、両腕で振る必要があり、これまた大変。利き腕はなんとかなるものの、反対の腕は慣れが必要。大して重くないフラッグだが、長い時間降り続けるのは、それなりに体力を使う。まして、夏場などはなおさらだ。

今回は観客がほとんどいないこともあって(10番ポストの背後は、少なくとも記者たちがいた時はゼロ)、井上さんはポストを降りたところで、旗振りの練習。試しに1本振ってみたが、それだけでもドライバーから見て最も面積が広く見えるように振るには、スムーズにはいかないらしい。ヒジから先だけを動かすなど、いろいろとテクニックがあるようだ。続いては、2本を持ち、交差させるような振り方。慣れないと、混乱してしまうので、2本のフラッグをかっこよく振るというのは、まさに芸術であるといえよう。

ポスト長の方の指導で旗振りの練習にいそしむ井上さん

初めてなのに、2本振りもそこそこ上手。記者なら腕がこんがらがりそう

でも途中でわからなくなってしまって……(ガックリ)

そしていよいよ本番。レース中は無理ということだったので、井上さんはオフィシャルカー先導によるフォーメーションの最中にコースに問題がないことを示すグリーンフラッグを振らせてもらっていた。面積も広く、ちゃんとドライバーにはグリーンであることが見て取れたことだろう。また、レース中に速度の落ちた車両があって、それを示すためのホワイトフラッグの提示(振らないで出すだけ)もしていた。ちなみに、レーシングスピードになると、直前ではまず見えないらしい。というのも、ちょうど右コーナーにアプローチするところなので、反対の左(アウト)側に建っている10番ポストを見ている余裕はまずないというわけだ。実際のところ、ヘアピン後の120R→300Rと右への大きなコーナーを駆け抜けてくる途中、9番ポストに近い辺りで、10番ポストのフラッグが一瞬見える程度だそうである。こうした点からも、10番ポストは早めにフラッグを振る必要があり、素早い判断が要求される難度の高いポストというわけなのだ。

井上さん、いよいよ本番。緊張の面持ち

選手のみなさん、見えていますか?

ホワイトフラッグも提示しました

次はぜひあなたがご自身で参加してみよう!

そのほか、いろいろと貴重な話を聞かせてもらったので、もっとお伝えしたいところだが、あとは来シーズンの体験会に参加して、ぜひ自分で見聞きして、そして体験していただきたい。サーキットまでの交通費はもちろん自費だが、参加自体は無料だし、下位のカテゴリーとはいえ、純然たるレースを観客席とは比べものにならない近い位置で観戦も可能。あまつさえ、清掃という仕事はあるが、コース上に出ていくともできる。主催者側も、「アトラクション気分で楽しんで参加してほしい」ということなので、気軽に参加してみよう。

参加者全員が朝待機していた部屋に戻ると、ここで違っていたのが、参加者の雰囲気。朝の寝不足気味でテンションの低かった状況とは異なり、全員が楽しそうに語り合ったりしていたことだ。田中副会長によれば、参加者はまず全員が早起き(中には夜通しの人も)しているので、結構ボーっとしていたりムッツリしていたりするが、現場を体験してくると、必ずテンションが上がって帰ってくるという。生の話を聞け、またレースを間近で見られ、そして貴重な体験ができ、大きな影響を与えるというわけだ。実際、ひとりひとりの感想もとても楽しそうだった。筆者も含めて参加者全員に配布された資料には、オフィシャル登録申請書も入っているのだが、かなりの割合の人が書き込んでいた様子。井上さん姉妹も書き込んでいたので、来シーズンのフォーミュラ・ニッポンやSUPER GT、再来年に帰ってくるF1の時には活躍しているかも知れない。今度は記者も、取材ではなくちゃんと参加してみたいと思う体験会であった。