高速回線を何に使うかというアプリケーション面については、まずHSUPA導入によって生まれるシナリオとして、携帯電話で撮影した動画の利用を挙げた。「アップリンクが速くなると、例えばある非常に重要なイベントに遭遇した人が、5分とか10分の動画を撮ってアップロードすることができる。事故が起こったときに、そこを経由してどこかに行きたい人がYouTubeを検索すると、何分か前にその場に遭遇した人の動画が見られるので、出かけるルートを変えるべきか判断できる、といったようになる」(辻村氏)。このように、現在主にダウンロード型だった動画コンテンツの楽しみ方が、アップロードを組み合わせたものに変わるとし、「これがインターネットのパワーであり、インターネットのケータイ化である。PCにはなかったリアルタイム性を持っている」(同)と強調した。
さらにLTEの時代になると、高速なだけでなく遅延が小さくなるので、さまざまな処理はサーバー側で行い、携帯電話端末は入力と結果の表示に特化したものになる可能性があると指摘。「サーバー側とクライアント側のロードバランスが変わり、サーバー側のほうへ負荷が移ってくるだろう。携帯電話はディスプレイや入出力に特化し、進化の方向がこれまでとは若干変わってくるのではないか」(辻村氏)。
OSは各陣営を並行採用、端末は多様化へ
高度な進化を遂げながらも、諸外国との仕様の違いのために、国内市場向けにしか出荷できないことが指摘されている日本の携帯電話端末。しかし、ソフトウェア開発コストの高騰にともない、ここへ来てオープンプラットフォーム導入の機運が高まってきた。辻村氏も「PCの世界では、基盤となるOSがあって、その上にいろんなアプリケーションが付いてくるという構造になっている。携帯電話でも同じことが起こる」とこの流れを認める。携帯電話OSとして有力とされるいくつかのプラットフォームがあるが、ドコモとしては「どれが主流になるかわからないと思っている。どれが発展してくれてもいいから、中立的な立場でそれぞれの端末を出していきたい」との立場で、同社はSymbian OS(Symbian Foundation)、Linux(Limo Foundation)、Android(Open Handset Alliance)の各陣営にいずれも参加しており、そのほかWindows Mobileも含めて各プラットフォームを採用した端末を並行して投入していくとの意向を示している。
また、端末に搭載するソフトウェアを、世界で共通して使用する部分とドコモ独自仕様に関する部分(オペレータパック)に分離することで、国内メーカーの海外進出や、海外メーカーのドコモ向け端末の供給をしやすくする。この仕組みを採用した端末は2009年後半より順次登場するといい、「これまでほぼ単一の構造を持っていた携帯電話が、大きくバラエティを持っているものに変わってくるだろう」(辻村氏)と見込んでいる。