皆さんがコーエーと聞いて思い浮かべる作品は何だろうか。『真・三國無双』? なるほど、いまや押しも押されもされぬ定番シリーズである。『アンジェリーク』? なるほど、女性向けゲームといえば真っ先に名前が挙がる作品だろう。『オプーナ』? 通ですね……。
コーエーが光栄だった頃からのファンである筆者が思い浮かべるのは、やはり『信長の野望』である。戦国大名となって自国を富ませ、敵国の領土を切り取って天下統一を目指す戦略シミュレーションゲームで、歴史シミュレーションというジャンルを確立したといっても過言ではない作品だ。現時点(2008年9月現在)で第12作目が発売されている長寿シリーズでもある。
今回紹介する『信長の野望DS 2』は、そんなシリーズの初期作品である第4作『武将風雲録』のリメイク。DSでの前作にあたる『信長の野望DS』が第8作『烈風伝』のリメイクだったことを考えると、シリーズをさかのぼることになるため、やや意外な印象を受ける。が、『武将風雲録』こそがシリーズ初期の傑作であると信じる筆者にとっては大歓迎のチョイスである。以下、『武将風雲録』を愛してやまない一ファンの視点から、『信長の野望DS2』を見ていくことにしよう。
オリジナル版の良さを生かしつつ新システムを追加した良質なリメイク
結論から言うと、本作は「らしさ」を残しつつ、絶妙な新システムが加えられて大幅にパワーアップした『武将風雲録』である。名作をリメイクするとき、新しいものを導入するあまり、原型を失ってしまうパターンがある。こういう場合、オリジナルのファンはなんとも言えない複雑な感情を抱くことになるのだが、本作には確かな『武将風雲録』らしさが残っている。それでいて追加されたシステムもうまく機能している。正直に白状すると、筆者が本作をプレイし始めたときは、かつて熱中した作品のリメイクだから、一応少しは触っておこう程度の気持ちだった。だが、実際にプレイし始めると、懐かしさと新しさが融合した新生『武将風雲録』の魅力に虜になってしまい、結局37時間35分(プレイ時間、セーブデータ調べ)かけて天下統一してしまったのである……。
そのほか見逃せない、というか聞き逃せないのがBGM。基本的にオリジナル版と同じ曲が使用されているので、ファンのツボを押さえまくりである。タイトル画面のあとのメニュー選択画面で、「OVERTURE ~信長の野望~」が流れたときは、メニューを選ぶのを忘れて聞き入ってしまった。「チャーチャーチャララララー♪」というアレである。文字では伝わらないのがもどかしい。昔『信長の野望』をやっていたという方なら、ほぼ例外なく覚えているはずの名曲だ。武田信玄のテーマや、毛利元就のテーマなど大名家固有のテーマも人物のイメージにあっている。『武将風雲録』を含め、シリーズ初期のBGMは何とあの菅野よう子さんが手がけているのだ。今なら人気アニメの主題歌を手掛ける作曲家、と言えばわかりやすいだろう。とにかく本作『信長の野望DS 2』は、BGMもその大きな魅力の一つなのである。
これが内政画面。上に基本的なデータが表示され、下のコマンドから実行する命令を選ぶ。最近のシリーズ作品は箱庭風の3Dグラフィックとなっているが、非常にシンプルでクラシックな印象となっている |
長々と個人的な感想をつづってきたが、そろそろ具体的なゲーム紹介を始めよう。まず、本作は好きな戦国大名を選んで天下統一を目指す歴史シミュレーションである。プレイヤーができることは、大きく分けて内政と戦争の2つ。内政は自国の収入を増やして軍備を増強するのが目的で、戦争は他国に攻め込んで領土を奪い取るのが目的だ。内政と戦争を繰り返して自国の領土を広げ、最終的に日本全国を支配すれば天下統一となりエンディングを迎える。内政も戦争もターン制で、自国の順番になったらそれぞれコマンドを入力するのが基本的なゲームの流れとなる。
内政の画面は今となっては懐かしい、自国のデータが数値で表示されているタイプ。開墾コマンドを実行すると石高が上がり、商業コマンドを実行すると商業価値が上がるなど、数値の上昇をコツコツと積み上げていく。RPGの経験値稼ぎなどに通じる楽しさ、と言えば伝わるだろうか。とはいえオリジナル版では、コツコツ内政しても思ったほど収入は増えず、異様な乱高下を見せる米相場を利用して資金繰りするのが基本だった。まるで現代の機関投資家のようだ(そういえば、『信長の野望 全国版』には空白地が生まれたら周辺諸国が入札して競り落とすという戦国時代らしからぬシステムがあったなあ……)。そのあたり、本作ではきちんと内政すればそれだけ収入が増えるようになっている。もちろん、それが王道の遊び方なのだが、乱高下する米相場は敢えてオリジナル版と同じなのがニクい。もちろん筆者は内政そっちのけで機関投資家の道を選び、大量の米を抱えているのに米の売値が上がらず、立ち往生するというお約束の場面も体験することになった。
勝敗を決めるカギはやはり兵の数。しかし、「戦術」コマンドで一発逆転というのも本作の醍醐味といえる |
そんなこんなで収入を増やし、あるいは米相場で一発当てて、十分な数の兵士を集めたら、いよいよ戦争である。戦場はいくつもの四角いマスで区切られており、その上に自軍のユニットを配置して戦う。敵軍のユニットに隣接して攻撃し、敵兵の数を減らしていく。兵数を0にするとそのユニットを撃破したことになるので、基本的には兵数が多い方が勝つ。ユニットの強さを決める武将に戦闘力の高い人材を用意し、強力なスキル(戦術)を駆使するなどすれば、大軍を破る可能性がないわけではないが、基本的には兵数で劣るほうが勝つのは難しい。つまり、戦争の勝敗は始まる前に決まっていることが多いのである。ゆえにプレイヤーの腕の見せ所は、いかに早い段階で、自国が絶対勝てる状況で戦争を仕掛けるかという戦略的なレベルにあるのだ。特に本作はコンピュータ大名の思考がオリジナル版と比べると強化されており、上杉や武田、伊達や島津など各地の有力大名は放っておくとどんどん勢力を拡大していく。余談だが、すべての大名をコンピュータ操作にして見ているだけのデモプレイにした場合でも、最終的にはどこかの大名が全国を統一する。オリジナル版で同じことをすると、どの大名も小競り合いに終始し、ただ時間だけが経過していった。しまいには登場する武将がすべて寿命で死亡してしまい、日本全国が空白地になって平和になりました、という珍事が発生していたものである……。