『アイアンマン』はマーベルコミックス映画の集大成

内容ももちろんだが、アメコミ・ファンにとって『アイアンマン』がとくに素晴らしいと思われる点は、本作がこれまでのマーベルコミックス映画のひとつの集大成になっていることだ。

今でこそ映画界で大成功を収めているマーベルだが、実は1990年代後半までハリウッドではさんざんな目に遭ってきた。経営が苦しかったマーベルは当面の金ほしさにキャラクターの映像化権を切り売りし、山師にその権利をまた転売されるということの繰り返しだった。 所詮はマネーゲームで、映画が実際に公開されることは稀だった。何かの拍子で映画ができても、当時のアメリカではコミックなどは頭から子ども向けと思われ、バカにされていたため、ファンをがっかりさせるようないいかげんなものばかりだったのだ。

この状況を打破したのはウェズリー・スナイプス主演の『ブレイド』(1998)である。このシリーズでは、ヒーロー映画を子ども向けではなく、ハイティーン以上の観客向けにクールに仕上げてヒットを生んだことで、その後のヒーロー映画の草分けとなった功績を持つ。

次にブライアン・シンガー監督による『X-MEN』(2000)。シンガーは元からコミック読者で、原作を深く理解していた。また、本作では俳優の知名度よりも、コミックのイメージを重視したキャスティングが行われた。ここで従来のファンが熱狂し、そうでない人も引き込まれる、初めてのマーベルヒーロー映画が誕生したのである。

そしてサム・ライミ監督の『スパイダーマン』(2002)が登場する。ライミは、原作の設定やストーリーを映画向けにアレンジするとき、作品の本質はひとつも変えないよう細心の注意を払った。その上で、コミック映画の枠にとらわれず、観客の共感を呼ぶ現実感をふんだんに取り入れたのだった。

コミック原作者のスタン・リーと。劇中でスタークが彼を「プレイボーイ」編集長だった有名な富豪ヒュー・ヘフナーと人違いする場面がある。へフナーはスタークのモデルとなった人物

マーベル映画で特に画期的な成功をおさめたこの3シリーズ作のエッセンスが『アイアンマン』にはすべて取り入れられている。

まず、原作へのリスペクト。ジョン・ファブロー監督は、徹底的な原作のリサーチを行なうと共に、原作者たちや、従来からのファンに意見を求め、積極的に取り入れていった。

左がジョン・ファブロー監督。スタークの運転手、ハッピー・ホーガン(原作ではスタークの親友でもある)役で映画にも登場している

そして、現実味ある設定へのアレンジ。時代は現代に改められ、スタークは原作よりも素直な性格になった。彼の心の弱さはむしろ観客の共感をよぶ持ち味となっている。また、アイアンマンスーツを初めて着たときはヨロヨロだったものの、次第に操縦に慣れていくプロセスの描写は『スパイダーマン』の一作目に通じるリアリティを感じさせる。

コミックのイメージ通りのキャスティング。最初、マーベル側はもっと有名な主演俳優を望んだという。しかし人気と才能に恵まれながらドラッグ問題で身を持ち崩した経歴があるダウニーJr.が、同じように挫折を乗り越えてきたスタークのイメージにぴったりだとして最終的に選ばれ、期待通りのハマリっぷりを見せることになった。

撮影現場での1ショット。和気あいあいの監督、スタッフ、ダウニーJr.。同メンバーで別の映画の企画があるという話もうなずける

そして、クールでスタイリッシュな映像。これは観ていただければ一目瞭然である。 まさに『アイアンマン』は1日にしてならず、だったのだ。

マーベル映画の今後から目が離せない

『アイアンマン』はマーベルが満を持して乗り出した、自社プロデュース映画の第一弾作品である。マーベルは、すでにコミック出版で行なっているように、映画でもキャラクター同士をリンクさせようという目論みを持っている。『インクレディブル・ハルク』には、トニー・スタークが出演して、今後の話の展開を匂わせる発言をした。

さらに2011年には、アイアンマンが中心的存在となって結成されるヒーローチームを題材にした映画『アヴェンジャーズ』が公開される予定である。『アイアンマン』では、もちろんその布石もバッチリ登場する。今後の展開から目が離せそうもない。

原作でも重要な相棒であるローディー(テレンス・ハワード)と固くタッグ。『2』の予告になるようなセリフも!? 続編では改良版のスーツも楽しみだ