物語の最初の舞台はベトナムからアフガニスタンへ

原作のアイアンマンは、1963年に誕生したキャラクターである。コミックの連載スタート時、アメリカは南北ベトナムの分裂に対して軍事介入を始めていた。もちろん状況が泥沼にはまることなど知る由もない時期である。そこで「アイアンマン」の第一話は、天才技術者トニー・スタークが民主主義に勝利をもたらすため、ベトナムに赴くところから始まる。

現地入りして新しい兵器のデモンストレーションを行なったスタークだが、地雷の爆発に巻き込まれて負傷したところを赤軍ゲリラに囚われてしまい、新兵器を造ることを命じられる。しかもスタークの体内には爆弾の破片が残り、それが心臓に到達すれば彼は死ぬ運命であった。だがスタークは監視の目をかいくぐり、心臓ペースメーカーを組み込んだアーマーを開発して、赤軍の要塞を破壊して延命と脱走を同時に果たしたのであった。

映画の設定では、このシチュエーションがベトナムから現代のアフガニスタンに変えられている。

アフガニスタンでもやることは兵器のお披露目

原作でのスタークは時代柄、アメリカン・ウェイの理想に身を捧げた男だった。だが映画のスターク(ロバート・ダウニーJr.)は最早そんなものを信じてはいない。彼の目的は利益だけ。殺戮兵器を作りながら、その兵器がもたらす破壊への責任を感じることはない。罪悪感がかすかに残っていようとも、彼は稼いだ大金を派手に浪費しつつ、現実から目をそむけてしまう。映画での彼はまったく生粋の21世紀型アメリカ人になっている。

ありあまるほどの金、一流の服、一流のカジノ、一流の女たち。すべてが揃っていても、アイアンマンになる前のスタークの目はどこか虚ろである

解消できないジレンマを持つヒーロー=現代アメリカの縮図?

だがアフガニスタンでの強烈な経験を経て、トニー・スタークは考えを変える。人々を助けるために何かできるはずだという熱意にかられ、天才的なテクノロジーの粋をつぎ込んだアイアンマン・スーツを開発し、人々を守る戦いに挑んでいく。

スタークは、多くのアメコミヒーローと違い、驚異的な体力も超能力もない。天才的頭脳を持っているという他はどこにでもいる、愚かで弱い普通の人間だ。だがひとたび、自分で作ったスーツを着込めば強力なヒーローに変身する。

その一方で、いかなるハイテクスーツであろうと、すべてを解決してくれるわけではないというジレンマも常に存在する。どんなに発展させ、どんなに平和利用を志しても、兵器自体は報復の連鎖も、人々の苦しみも、終わらせることはできないのだ。彼のこの苦しみこそは、今のアメリカが抱えるジレンマそのものである。

原作でのスタークは、このジレンマや、"大企業の社長業"と"ヒーロー"の二足のわらじの重責に耐えかね、しばしば酒に逃避した。そうした心の弱い部分をエゴで押し包もうとする性格から、友人や仲間たちから孤立することも多い。

映画でのスタークは、アイアンマンへとしての使命に目覚めたばかりということもあり、そのような描写はなかった。しかし2010年の『アイアンマン2』では、どんな運命が待ち受けているのだろうか。アイアンマン・スーツはさらに改良を重ねていくだろうが、スタークの選んだ道はこの先、決して順調ではないはずだ。

地下基地でハイテクスーツの工作に熱中。こんな休日の過ごし方に憧れます

これまでアイアンマンは、マーベルの他の人気キャラに比べ、どこか地味な存在だった。しかし、現代においてこれほどピッタリくるキャラクターもない。今こそ「アイアンマン」の時代の到来と言えるのかもしれない。