iTunes 8の新機能として取り上げられたのは、新しいブラウジング機能とGeniusだ。グリッドビューでアルバムのカバーアートなどのサムネイルをながめながらブラウジングできるようになった。文字を中心としたリストよりも、すばやくライブラリー全体を把握できる。画面の上部には絞り込み用のバーが配置されており、音楽の場合だと「アルバム」「アーティスト」「ジャンル」「作曲者」などのボタンが並ぶ。例えばアーティストで絞り込んだ場合、iPhoneやiMovieでおなじみのスキミングを使って、中を開かずに含まれているアルバムをチェックできる。
Geniusは、ユーザーの音楽の趣味やリスニング傾向を分析し、ライブラリから自動的にプレイリストを作成してくれる機能だ。Appleが独自に開発したアルゴリズムがiTunes Storeに組み込まれており、ユーザーがGenius機能をオンにすると、トラック名や再生回数、プレイリストなどiTunesライブラリ内の情報がAppleに送られる。これらの情報は、コンテンツ利用の傾向を知るためのデータであり、個人が特定されない完全に匿名の状態で送信されるそうだ。様々なユーザーからのデータが集まれば集まるほどにGeniusは賢くなり、そしてより関連性の高いGeniusリストを作成してくれるようになる。iTunesユーザーの集合知を活かした機能であり、前述のように数多くのiTunes Storeユーザーがいるからこそ、優れたリコメンデーションが期待できる。シャッフル機能が初めて導入された時もライブラリに埋もれた音楽の再発見につながると評価されたが、Geniusはさらに効率的な"再発見"につながりそうだ。Jobs氏は「ワンクリックで素晴らしい結果を得られる」とアピールしていた。
クラウド(iTunes Store)に、トラック名、再生回数、レーティング、プレイリストなどユーザーのiTunesライブラリの情報を送信 |
送信される情報は、個人が特定されない完全な匿名であることを強調 |
GeniusはiTunesライブラリだけではなく、サイドバーを通じてiTunes Storeとも連係する。選択したアーティストについて、人気アルバムやユーザーが所有していない楽曲、関連する他のアーティストの曲などがリストされる。
Amazon.comやeBayのようなオンラインストアでは、利用者のブラウジングや購買動向を基にしたお勧め機能が製品とユーザーを効率的に結び付け、今やサービスの生命線とも言える存在になっている。GeniusはiTunesユーザーがライブラリに収めているコンテンツや再生動向を基にしたデータであり、またオンラインストア(iTunes Store)とローカルソフト(iTunes)のシームレスな統合が反映されている点で、Appleならではのユニークなリコメンデーション機能となっている。
集合知であることからJobs氏は「すべてのユーザーが利益を得られる」と述べていた。だが恩恵を受けるのはユーザーばかりではないだろう。GeniusサイドバーはiTunes Storeに直結しているし、Appleがアピールする通り、Geniusが"音楽の再発見"につながるのならば、iPod/ iTunes/ iTunes Storeのエコシステムをより強固にする機能になる。iTunes Storeは6,500万アカウントを抱えているのだ。これが成功すれば、同様の機能が他の分野にも広がるかもしれない。またGeniusのデータをパートナーや開発者と共有するというアイディアに発展する可能性も考えられる。Appleがユーザーのコミュニティ力の活用に目を向けたという点で、今後のなりゆきに注目したい機能である。