「One Pair」~二羽の雄のカワウの巣作りの意味は?

日本のOLMデジタル社の制作作品。

カワウの雄は繁殖期になると繁殖相手の雌を見つけ、雌が卵を産むための巣作りを雄が行う習性ががある。しかし、雌の獲得にあぶれた雄同士が、ごくまれに卵が産み付けられることのない無意味な巣を作ることがあるのだそうだ。

この、謎の「雄同士の巣作り」を独自の解釈でコミカルに描いた心温まる作品がこの「One Pair」だ。

柔らかな光で溢れかえる実在しそうな東京のロケーションに、リアル志向の造形のカワウをはじめとした様々な鳥が登場する本作は、CG作品であることを忘れさせるほど自然で美しい。リアル志向の映像でありながら、登場する鳥達が全て達者な日本語を話すため、どことなくコミカルな雰囲気が感じられるのがユニーク。物語も、しっかりとした起承転結があるためわかりやすい。一発ネタと唐突な展開が目立つSIGGRAPHの他作品の中にあって、日本的な丁寧な作品作りが感じられる。

より詳しい作品の情報についてはOLMデジタル社のサイトを参照して欲しい。

よくできた嘘で賞(Best Well Told Fable Prize)「Our Wonderful Nature」~動物界の生存競争は実はカンフーで決められていた!?

ヨーロッパの自然の風景から動物ドキュメントのように始まるこの作品。水辺に済むゲッシ目のミズトガリネズミ(Water Shrew)の世界はめまぐるしいペースで動いており、我々人間界の時間の過ぎ方とはちょっと違う。彼らは生き抜くために一日全てを餌を探しに費やすし、春の繁殖のシーズンになれば、配偶者となる雌を獲得するために雄同士は激しい戦いを繰り広げる。

前半は全く普通のネイチャー系番組風をCGで再現しただけだが、そのうちにおかしなことが始まり出す。

最初の映像では、雌を奪い合う雄同士の戦いがあっという間に勝負が付いて終わってしまうが、「動物の世界は時間の尺度が違うので、スロー再生してじっくり観察してみましょう」としてここでリプレイがゆっくりと流れ出す。

そこで視聴者は衝撃の事実を目の当たりにする。

なんと、超高速度カメラが捕らえていたのは、ミズトガリネズミの雄同士のカンフーバトルだったのだ!!

しかも、全くフェアじゃない夢も希望もない卑怯者同士のカンフーバトルへと発展し、来場者の笑いも絶頂に達する。

物語的には後半のナンセンスなシーンに興味が集中してしまいがちだが、この後半の盛り上がりを強調するために、前半は徹底した自然描写のリアリズム表現にこだわっており、技術的観点では実は見所は前半に集中している。

映像の全編はbitfilmフェスティバルのサイトから視聴が可能。

なお、この作品は妙な人気が出てしまったことから、「よくできた嘘で賞」(Best Well Told Fable Prize)というような洒落の効いた名前の賞が与えられた。