いよいよ、タネ・マフタに会いにいく。ワイポウアの森は自由に歩くこともできるが、森の植物やタネ・マフタに関するマオリの伝説を聞きながら回るのがおすすめだ。朝のうちに森に入り、シダが密生する原生の森に設けられた遊歩道を歩くと、生い茂る木々の向こうにタネ・マフタが見えてくる。推定樹齢1200年、幹の周囲は13.8m、樹高51.2mの大木だ。この木は森の中でより多くの光を得るため、成長するにつれて自ら枝を落としていくという不思議な性質を持つそうだ。そのため、幹には枝が少なく、空に向かってまっすぐ伸びている。太陽の光が幹を照らし、いかにも威風堂々とした姿に見とれていると、風がざわざわと森を鳴らした。私たちの訪れに、森とタネ・マフタが応えているように思えた。
木の上に残る枝の部分には、草や苔など何十種類もの植物がこの木を住処として共生し、周囲にはタネ・マフタを崇めるように木々が茂っている。「私たちも森も、みんなタネ・マフタの子どもなんだ」と、マオリのガイドが説明する。大げさに聞こえるかもしれないが、木を前にすると本当にそう感じ、私たちは風の吹く森でしばらく立ち尽くした。
夜の神木を訪れるスピリチャルなナイト・ツアー
前夜、私たちは同じ場所でナイト・ツアーに参加していた。真暗闇の中、足元もおぼつかないまま森に入るのは、それだけで少し緊張するものだ。
森に入るとき、マオリのガイドはタネ・マフタに敬意を示し、私たちが森に入ることを伝えるための儀式を始めた。私たちと一緒にいたひとりのマオリが歌を歌い始めると、森の奥にいる他のマオリがそれに応えて歌う。夜の森に掛け歌が響き合う幻想的な儀式は、これからタネ・マフタに出会う高揚感を高めてくれた。
暗闇を進み、タネ・マフタの前へ出ると急に視界が開ける。月灯りに照らされたその姿は神々しく、威厳に満ちていた。タネ・マフタの前で挨拶の儀式が始まり、闇の中に再び打楽器と掛け歌が響いた。風が森をざわつかせ、遠くに夜行性のキーウィの声が聞こえる。キーウィはニュージーランドの国鳥であり、近年では数が減り、野生のものにはなかなか出会えないというので、私たちは幸運だった。
マオリの人々は歌が上手く、タネ・マフタを見ながら声量のある伸びやかな歌声に聞き入っていると時間を忘れた。儀式の後、私たちは静かにこの神木の姿に眺め入り、10分程度に感じたが、実際は1時間半以上そこにいたようである。
マオリの創世記では、このように記されている。――この世は何もない虚空から始まった。空の父と大地の母の2人の神は深い愛情で結ばれていたために片時も離れず、それによって世の中は暗闇に覆われていた。このとき、大地に両足をはり、その巨体で空と大地を離し、この世に光をもたらしたのが森の神タネ・マフタだ――今でもマオリの人々のこの木に対する信仰は厚い。訪れる際は敬意を払い、ゴミなどで森を汚さない注意が必要だ。
タネ・マフタそのものの魅力はもちろんだが、マオリの人々のこの演出は心憎いほど効果的で、印象的だった。タネ・マフタとカウリの森の神秘を体感したいなら、このナイト・ツアーはぜひ参加してみてほしい。