「満足度が高い作品を作った」と語る中田監督。ハリウッドデビューも果たした彼は、これから何処へ向かうのだろうか? 日本の『リング』シリーズ及び、ハリウッドの『ザ・リング2』を監督した中田監督の元には、世界中から映画のオファーが来ている。
「ネット上などで色々と噂されている僕の映画の企画というのは、あくまでも企画段階で、どれが実現するかわからないものばかりです。ただ最近はアメリカ以外の国からも色々と企画が来てます。日本では"『L』を監督してくれ"って依頼があるときは、もうその製作が決まっています。仮に僕が断ったとしても他の監督で企画は実現する。監督に企画を持っていくときは、もうほとんど9割方製作が決まっているんです。それがハリウッドでは全然違う(笑)。監督の依頼が来ても、実現しない企画が沢山ありますし、現時点では、まだ何とも言えません」
「最新作はハリウッドを舞台にしたドキュメンタリー作品」
やはり、これからの中田監督は活動の拠点をアメリカへと移していくのだろうか?
「ハリウッド映画を監督しても、基本的に僕の活動ベースは日本です。実は数日前に最新作が完成したんですよ。ビデオ撮りのドキュメンタリー作品で、僕の波乱に満ちたハリウッド生活を描くハリウッド監督学的な作品で、『ハリウッド監督学入門』というタイトルです。僕の監督した『ザ・リング2』。『the EYE』(2002年 ※世界中でヒットしたタイのホラー映画)のハリウッドリメイク企画に参加した話。それに加えて、あの清水崇監督の『呪怨 JYUON』(2004年)。この3作品に関わった僕自身を主人公にしたドキュメンタリーです。僕がその3作品のプロデューサー、監督、スタッフにインタビューして、僕ら日本人から見たハリウッド映画作りの不思議な点を浮き彫りにした作品です」
ハリウッドで実際に監督デビューし、結果を出した日本監督の視点から、中田監督はハリウッドの映画製作の問題点をドキュメンタリーの手法で描いたようだ。
「とにかく真面目な作品です。僕や清水監督がやっているような事(※日本人映画監督によるハリウッド進出)をしたいと思ってる若い監督には、観てもらうと凄く参考になると思うし、普通の方が観ても、映画業界の内幕がわかる面白い作品になっていると思います」
中田監督の代名詞とも言える『リング』シリーズはまだ続いて行くのだろうか?
「『ザ・リング3』の実現は難しいんじゃないですかね。海外でもよく聞かれるんですけど、ハリウッドで『ザ・リング3』という企画自体はたぶん存在すると思うんですが、僕の参加はないですね。さすがに今、ビデオで映画を観る時代は終わってるじゃないですか。『ザ・リング』はビデオテープが重要な話なので、今後は難しいと思います。現時点では、僕の企画としては国内では3つくらいあるのですが、、海外のプロデューサーから"やってくれないか"という企画もいくつかあるので、そちらが先に実現する可能性もありますね」
「死ぬまでに1本は家族ドラマを撮りたい」
海外にも目を向けつつ、あくまでも日本をベースにして地道に映画作りをしていきたいと中田監督は語る。
「やっぱり日本映画にも長所・短所はあると思うのですが、僕にとってはハリウッド映画の短所がどうしても気になるんです。コンスタントに監督していくという部分では、日本のほうがやり易いですね。もちろん、予算の違いはあるのですが、はっきり言えば日本映画の監督の方が、作品に対して、クリエイティブなコントロールを保てる。ハリウッドでは、会社で言えば映画監督は部長ぐらいの権限しかないんです。プロデューサー及びスタジオの力が監督よりもはるかに強い。多くの場合、監督は雇われ監督で、日本でも監督が最終編集権を持てるっていうことはないんです。それでも、日本では監督の意見が最大限尊重されます。現場でも監督を中心に物事が進んでいく。自分のイメージに正直に作品作りに取り組めるんです。もちろん妥協ゼロとは言いませんけど、妥協することが少ない。日本で映画を監督するほうが、僕にとってはやりがいがあると感じています」
そんな中田監督は、どんな映画をこれから作っていきたいのだろうか?
「皆さんにはホラーのイメージが強いと思いますが、僕はストレートなドラマ思考なんです。恋愛モノっていうかメロドラマが凄く好きだったし、最終的にはジャンル的に広すぎますけど、メロドラマと家族ドラマを作りたいですね。家族ドラマは最終的に死ぬ前に1本は撮りたいです。『L』はメロドラマと家族ドラマとはちょっと違いますけど、ただメロドラマ的なことをあえて言うならLと主役の子供たち2人っていうのは3人とも孤児なんですよ。孤児3人が世界に対して逆境の中で生なきければならない。『L』の中に好きなシーンがあるんです。3人が逃亡中に川辺で休むシーンなんですけど、横に関係ない親子連れが水遊びをしている。孤児3人が寄り添って頑張ってますっていう何気ない、台詞もない場面ですけど、自分でも凄く好きですね。センチメンタルな場面ではあるんですけど。あのシーンには、自分の本質が出ていると思います」
日本を代表するホラー映画監督として世界に知られている中田監督。ホラー以外のジャンルにも意欲的に取り組む中田監督の世界に『L change the WorLd』で触れて欲しい。
中田秀夫 プロフィール
1961年、岡山県出身。映画監督デビュー作『女優霊』(1996年)における、斬新な恐怖描写で注目を集める。『リング』(1998年)、『リング2』(1999年)でJホラーブームを巻き起こす。その後も、『仄暗い水の底から』(2002年)などで、ハリウッドからも注目を集める。『ザ・リング2』(2005年)でハリウッド進出し、全米映画興行成績1位を獲得。他の監督作品に『暗殺の街』(1997年)、『ガラスの脳』(1999年)、『サディスティック&マゾヒスティック』(2000年)、『カオス』(2000年)、『ラストシーン』(2002年)、『怪談』(2007年)などがある。最新作は『L change the WorLd』(2008年)。現在、ハリウッド及び日本にて、多数の企画が進行中
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インタビュー撮影:中田浩資